snow light




 夕刻からフワリフワリと降り始めた雪は。
 次第に、辺りを銀世界に変えていった。
 雪が積もっていく微かな音を掻き消すかのように、暖炉の炎がパチパチと時折音を立てている。
 真っ赤に燃える炎の前で、男の白銀の髪が赤く染まった。
「アルベルト・・・?」
 男の口唇から零れ落ちた名前に、言葉を返す者はなく。
 薄い笑いと共に溜め息を吐きながら、男は座っていたソファから立ち上がった。



 探している人物に与えてある部屋にもその姿は見えず。
 男は、中庭に足を運んだ。
 仄白い雪明りの中に浮かぶ人影。
 それに向かって、男は呼びかけた。
「アルベルト」
 真っ白な雪の中で。
 振り向いたその人物の、白銀の髪、白い肌。
「まるで、雪の中に消えてゆきそうな風情だな・・・」
 男の言葉が聞こえたのか、そうでないのか。
 彼はゆっくりと。
 雪の中に仰向けに倒れていった。
「アルベルト」
 名前を呼びながら。
 雪を踏み分け、男は彼に近付いた。
 氷を思わせる透き通った瞳は。
 どこか遠く、空の彼方を眺めていた。
 長い銀の睫毛が、雪明りを受けて小さく光を放つ。
「アルベルト。一体、何を見ている?」
「空を」
 簡潔なその答えは、男を満足させるものではなかったが。
「フン、まあいい。お前が何を見つめていようとも・・・お前が、私のモノであるという事実に変わりは無いのだからな」
 そして男は腕を伸ばし、彼の身体を雪の中から抱き上げた。
「こんな場所にいては身体が冷える。部屋に戻るぞ」
「ここに・・・いたいんだ・・・」
 男の紅の瞳が、彼を一瞥した。
「私に断りも無く・・・体調を崩すような行為は許さん」
 彼の瞳が一瞬だけ。
 大きく見開かれて。
 それから、視線を逸らされた。
「・・・・・・・・・」
 何か言いたげな。
 けれども何も言わない口唇から、白い吐息。
 そして彼はまた、遠くを見つめた。



「アルベルト」
 名前を呼べば、視線がこちらを向く。
 けれども・・・どこか遠い眼差し。

 抱きしめて。
 口唇を重ねても・・・。

「アルベルト」
 髪が、白く。
 光に揺れて。
 雪明りの中に、溶けていきそうな。
「アルベルト・・・」

 遠くの世界から彼を取り戻したいと願い。
 再度。
 口唇を重ねた。



 〜 END 〜




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黒44ですが、微妙に24前提。
あまり黒様が鬼畜でなくてスミマセン。
ちょっぴりスウィートバージョンも考えていたのですが、
そちらはボツに(笑)。
あんまりクリスマスっぽい話には・・・げふごふ。





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