Present fou you ..




 大きなクリスマスツリーの下で、ハインリヒはジェットを待っていた。



『ハインリヒ!デートしよう、デート。街の大きなクリスマスツリー、知ってるだろう?あそこで、午後4時に待ち合わせな』
『はあ?ちょっと待て、ジェット』
『楽しみにしてるぜ〜vvv』
 ハインリヒの返事も聞かず、ジェットはサワヤカな笑顔を残して背を向けたのだ。



 待ち人、現れず。
 チラリと腕の時計に目をやった。
 時計の長い針が小さく動き、数字の2を指した。
「お前が待ち合わせというから、来てやったのに・・・」
 呟きながら、目の前に続く大通りに視線を移すと。
 バタバタと騒々しく、ジェットが駆けて来る姿が目に映った。
 段々とジェットの姿が大きくなって。
「ゴメン、遅れた・・・!」
 ハアハアと息を付いたジェットの広い肩が、上下に揺れた。
「本当にゴメンな」
 申し訳なさそうなジェットに、
「全くだ。勝手に待ち合わせを決めたのは、お前なのにな?」
 いささか非難がましくそう答えた。
 ジェットはじっと、ハインリヒを見つめている。
 少し落ち着かない気分になり、ハインリヒが身じろぐと。
「ハインリヒ・・・」
 ジェットの指先が、頬に触れてくる。
「こんなに冷えて・・・オレの所為だな。本当にゴメン」
 温かな指先が心地良いと思ったが。
「こんな人目の多い場所で、お前は一体、何をしてやがるんだ?」
 素直じゃないな、などと自分でも思いながら、ジェットの手を軽く払った。
「ゴメン、ゴメン。キミが嫌なら、もうしない」
 両手を上げ、ジェットが降参のポーズを取る。
「で?わざわざこんな場所で待ち合わせをして、これからどうしようってんだ?」
「今日はクリスマスイブだろ?明日はみんなでパーティーをするってフランが言ってたからさ。今日は二人きりでデートしよう。な?」
 ・・・なんて眩しく。そして、魅力的に笑うのだろう・・・。
「・・・仕方ないから、付き合ってやる」
 心の高鳴りがジェットに聞こえてしまうのではないかとドギマギしながら。
 なんとか平静を保って返事をした。
「それじゃ、行こうか」
 ごくごく自然に、ジェットがハインリヒの手を取った。
 ジェットに手を引っ張られ、冬の街を歩く。
 ハインリヒはキュッと、ジェットの手を握り返した。



 街は、どこもかしこもクリスマス一色で。
 冬の日暮れは早く、既に薄暗くなりつつある景色の中で、綺麗に 飾り付けられたライトがキラキラと瞬く。
「クリスマスの時期ってさ。街が、すごくキレイだよな・・・」
 白い息を吐きながら、ジェットが笑う。
「・・・そうだな・・・」
 頷きながら、ジェットを軽く見上げると。
 琥珀色の瞳がライトの光を反射して。
 綺麗に輝く様に、目が眩みそうになった。
 慌てて視線を落として俯くハインリヒに、優しい声が降ってくる。
「ハインリヒ」
「・・・何だ?」
「愛してるよ・・・」
 穏やかな、穏やかな瞳。
 思わずハインリヒは、その場に立ち止まった。
「ジェット・・・」
「イイよ、何も言わなくても」
 言いながら、クスリとジェットは笑う。
「キミの目を見れば、ちゃんと分かるから」
 臆面もなく、そんな台詞。
「オレがいつまでもキミの側にいるコト。許してよ、ねえ?」
「・・・・・・」
 無言のまま、ジェットを殆ど人通りがない通路に引っ張り込んだ。
「ハインリヒ・・・?」
「馬鹿野郎」
 もっと気が利いた事を言いたかったはずだ。
 『好きだ』とか、『愛してる』とか・・・。
 けれどもそんな事しか言えず、ハインリヒはギュッとジェットを抱きしめた。
「・・・馬鹿野郎・・・」
「馬鹿でゴメンな」
 やっぱり優しい声でそう言いながら。
 優しい指先が、頭を撫でてくれる。
 ジェットの肩先に顔を埋めたまま、そっと目を閉じた。

「あ・・・」
 不意に。
 ジェットが呟く声。
「ホラ、ハインリヒ!顔を上げて、空を見て・・・」
 少し弾んだ声に、ハインリヒは視線を空に移した。
 空から、ヒラヒラと。
 舞い落ちてくる。
 白い雪が・・・。
「うわ・・・。キレイだな・・・」
 街の灯かりをその身に吸い込んで。
 キラキラ、キラキラと真っ白に輝きながら・・・。
 白い雪が、降る。
 ジェットの指が、ハインリヒの髪にサラリと触れた。
「キミの髪みたいだな・・・」
「お前はまた、バカな事を・・・」
 空を見上げながら。
「傘を持ってきてないな・・・。キミに風邪をひかせてもなんだし・・・早めに帰ろうか、ハインリヒ?」
 ジェットが、問いかけてくる。
 もう少し、二人で一緒にいたくて。
 怒ったような顔で、ハインリヒは答えた。
「傘ぐらい、どこかの店で買えばいい・・・」
 ハインリヒの目の前で、琥珀色の瞳が丸くなって。
 それからジェットは、破顔した。
「・・・そうだな。傘、買おうか」
 再び、ジェットの手がハインリヒの手を取った。
 その手の温もりを確かめるように。
 ハインリヒも再び、キュッとジェットの手を握り返した。



 〜 続く 〜




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に、にーよんです・・・。
どこかで似た様な話を書いたような気がしないでもないのですが、
そこの所は多目に見てくだされば嬉しいです(汗)。
皆様もどうぞ幸せなイブを!
翌日のクリスマスの朝のお話へと続きがありますが、
アップは25日予定です。




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