キャンドルライト
(24)




 アドヴェントクランツに灯された、キャンドルの炎が4つ、揺れている。
「キャンドルに火をつけた時って、部屋の明かりを消したくならない?」
「誕生日か何かと勘違いしていないか、お前は・・・?」
「イイだろ?明かりを落とそうぜ」
 返事も待たずに部屋の電気を消すと、赤い炎がぼんやりと二人を照らした。
 キャンドルを見つめているハインリヒの白銀の髪が、柔らかな赤に染められて。
 淡いブルーであるはずの瞳の中に、赤い炎が映って、弾けた。

 二人だけの空間。聖なる夜。

 自分の瞳の中でも炎は赤く燃えているのだろうかと、ジェットはそんな事を考えた。



「ジェット」
 不意に名前を呼ばれ、ハインリヒに視線を向けた。
 すると、困ったようにハインリヒが笑った。
「キャンドルの灯りだけだと、どうにも薄暗くて、何となく落ち着かないと思わないか?電気を・・・」
「ダメ」
 部屋の明かりをつけようとしてハインリヒが伸ばした手を押し留めて。
 フウ、と息を吹きかけて、キャンドルの炎を消した。
 赤い炎の残像だけが、瞼の裏に残る。
 部屋の中は一瞬、闇に包まれたが。
 カーテンの隙間から微かに零れてくる月明かりで、ハインリヒの表情を伺うことができた。
「ジェット・・・?」
 困惑を、色濃く含んだ声音。
 愛しい人を前にして、胸の内が燃える。
 つい先ほどまで灯っていた、キャンドルの炎のように赤く・・・紅く。
「ハインリヒ」
 声のトーンを落として、名前を呼んだ。
 薄暗がりの中、ジェットの声に何かを感じ取ったのか、ハインリヒの身体がビクリと震えた。
 スイと手を伸ばし、頬に触れる。
 ハインリヒに向かって身を乗り出すと、キュッと瞳を閉じた。
 その瞼に、キスを落とす。
「そんなに怖がらなくても・・・」
「誰が怖がってるって?」
「キミが」
 ハインリヒが、ムッとした気配。
「怒った?」
 クスクスと笑いながら、部屋の明かりをつけてやると、不貞腐れたような表情のハインリヒと目が合った。
「ご機嫌を直しなよ、ハニー。キャンドルにもう一度火を灯して、仕切りなおすからさ」
「・・・誰がハニーだ・・・?」
「キミ・・・って、待てよ、ハインリヒ。モノをぶつけるなよ?ケーキも一緒に被害を蒙るかも知れないぜ??」
 好物のケーキを楯にして脅せば、悔しそうな顔をして、ジェットにぶつけようとしていた皿を下ろした。
 マッチを擦って、その炎をキャンドルに移していく。
 火が消されたマッチから少し焦げたような匂いが辺りに漂ったが、その匂いでさえも、今日はどことなく風情があるように感じられた。
 シャンパンの栓を勢い良く開けて、グラスに中身を注いで。
 肩を竦めてからハインリヒが手に取ったグラスに、カチリと自分のグラスを合わせた。



 アドヴェントクランツに灯る、4つの炎。
 その灯りが、シャンパングラスに映って・・・。
 ゆらゆらと、赤く揺れた。



  〜 END 〜




−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

リクエストを頂戴したので、「キャンドルライト」は24で。
イメージに沿った作品になっているといいのですが・・・。
ちょっと短めのお話になりましたが、気合は入ってます!!
(そうは見えないかもしれませんが)
雰囲気を出したかったのですが、上手く出せずにスミマセン。






ブラウザを閉じてお戻りください。