サンタクロース
(14)
暖炉の中で、赤く、炎が揺れる。
イワンを膝に乗せながら、ハインリヒはのんびりと本を読んでいた。
小さくて柔らかな身体はポカポカと温かで気持ちがイイ。
二人で過ごす時間はハインリヒにとって、心地好いひと時だ。
不意に。
『モウスグくりすますダネ。さんたくろーす、ぼくノ所ニモ来テクレルカナ?』
我らがスーパー超能力ベビー、イワンの呟きに、ハインリヒは目が点になった。
「は??」
思わず聞き返すと、ぷにぷにとした小さな手が、むぎゅうとハインリヒの頬を摘んだ。
『さんたくろーす、ぼくノ所ニモ来テクレルカナ?、ッテ言ッタンダヨ!』
「いたいた痛い!イワン、分かったから、その手を放してくれ・・・!!」
イワンの頬が、プウと膨らんだ。
『ぼくガさんたくろーすヲ待ツノッテ、ソンナニオカシイ?』
大人の自分以上に思考が大人なイワンが、サンタクロースを待つ、などという発言をする。
それは、ハインリヒにとって大きな驚きだった。
思わず頷きかけたが、またイワンの機嫌を損ねると大変だと考え、ハインリヒは思い止まった。
「お、おかしくなんかない・・・と思うぞ」
たどたどしく返事をすると、疑わしげな声が聞こえてきた。
『本当ニソウ思ッテル?』
「もちろんだとも!」
力強くハインリヒが頷くと、イワンがふうと溜息を吐いた。
『今マデ、くりすますハ眠リノ時間ノ間ニ過ギテイクことガ多カッタカラネ。さんたくろーすガ来テクレナクテ、トッテモ残念ニ思ッテタンダ』
(イワンは、本気でそう思っているのだろうか・・・??)
ハインリヒの頭は、ハテナマークでいっぱいになった。
(だが、イワンが本気でそう思っているのならば、何が何でもサンタを派遣してやらねばならん・・・!!)
イワン馬鹿のハインリヒは、取り敢えずフランソワーズに相談してみることにした。
キッチンでお茶の準備をしているフランソワーズに声をかける。
「フランソワーズ。お前さんに話したいことがある」
「なあに、ハインリヒ?」
「イワンが、サンタクロースを待っているらしい。本気かどうかは分からんが・・・」
「あらあ!!」
思いっきり嬉しそうな声。
「イワンがサンタを待ってるなんて、可愛〜いvvvこれはもう、ワタシ達で盛大に望みを叶えてあげなくちゃ!!」
満面の笑みを浮かべながら、フランソワーズがハインリヒの肩を叩いた。
「と、いうワケでvハインリヒ、サンタ役をお願いね〜vvvプレゼントはワタシとジョーで選んでおくわ」
「え?」
痛いぐらいに肩を叩かれながら、ハインリヒは間の抜けた返事をした。
イワンのためにサンタを派遣する気は満々だったが、自身がサンタに扮する、ということは想定外だった。
「せっかくだから、サンタの衣装も買ってきましょう♪本格的にやらないとね。トナカイはジェットにやらせようかしら??ジョーに相談してこなくっちゃ!!」
ウキウキとフランソワーズがキッチンを出て行く。
「フラン、お茶は・・・?」
「自分で淹れて頂戴。お湯は沸いてるわ」
すっかり忘れていた。
フランソワーズはお祭り騒ぎ(?)が大好きだというコトを。
「相談したオレが悪かった・・・のか・・・?」
ハインリヒは力なく肩を落とし、ご機嫌なフランソワーズの後姿を見送った。
クリスマスイブは、ギルモア邸で盛大なパーティが催された(もちろん、フランソワーズ主導)。
美味しい料理に満ち足りた気分のハインリヒに向かって、フランソワーズがパタパタと足取りも軽く駆けてきて。
「ハイ、ハインリヒv」
語尾にハートマークを飛ばしながら、ハインリヒに大きな袋を押し付けた。
「じゃーん!サンタの衣装だよ〜!!ちゃんとヒゲも付けてねv」
言いながら、ジョーが持っていた紙袋からごそごそと赤い服を取り出した。
「ハインリヒ!今晩これを着て、イワンの枕元にクリスマスプレゼントをそっと置いてあげるのよ!!分かったわね?」
そうハインリヒに厳命した後、フランソワーズはハインリヒの隣にいたジェットに視線を移した。
「ジョー。ジェットにも出してあげて」
紙袋から、新たなるグッズが登場した。
「ハイ!ジェットにはトナカイの着ぐるみでーすvワンポイントで赤い鼻をつけるのを忘れないで!」
「って、どうしてオレがトナカイなんだよ!?」
ニコニコ、ニコニコとフランソワーズ&ジョーが笑った。
「だって。ねえ、ジョー?」
「ジェットはハインリヒの奴隷なんだから、トナカイがお似合いだよ」
ズガーンとショックを受けているジェットの肩を、ハインリヒは軽く叩いた。
「諦めろ、ジェット。ああなっているフランに何を言っても無駄だ。大人しく言うことを聞くのが身のためだぞ」
「・・・分かりましたよ・・・」
ホホホとフランソワーズが声を立てて笑った。
「二人とも聞き分けがイイわね。それじゃ、任せたわよ〜vさて、ワタシは後片付けをしなくちゃね」
「ボクも手伝うよ!」
取り残された二人の手の中には、怪しい(?)衣装一式。
「こうなったら仕方あるまい。(イワンのためではあるし)やるぞ、ジェット・・・!明日の0時に、衣装に着替えてイワンの部屋の前に集合だ!」
ジェットが情けない表情でハインリヒを見つめた。
「キミって、ホント、真面目だよな・・・」
「遅刻は許さんぞ、ジェット。分かったな?」
「ハイハイ、分かりましたよ」
(まずは、衣装の試着をしなくては・・・!)
思いっきりヤル気のなさそうなジェットを置いて、ハインリヒは取り敢えず、自室に戻るのだった。
そして・・・。
12月25日、午前0時。
ハインリヒとジェットは、イワンの部屋の前に集合していた。
律儀に、フランソワーズから与えられた衣装を身に付けて。
現れたジェットの姿を見て、ハインリヒは失笑した。
「なかなか似合ってるぞ、ジェット・・・ププッ・・・」
「笑うなよ!キミこそお似合いだぜ?ヒゲもなかなかマッチしてるし」
互いに顔を見合わせてクスクスと笑いあった後、ハインリヒはイワンの部屋のドアに手をかけた。
そっとドアを開け、二人が部屋に入って行こうとすると・・・。
『となかいハ要ラナイヨ。サッサト出テ行ッテ』
イキナリのイワンの声に、
「子供は寝ている時間だぞ、イワン!!」
「こら、イワン!このオレ様がせっかくトナカイに扮してやったっていうのに、要らないとはなんだ!?」
二人がそれぞれに言葉を発した時、ジェットの鼻先でバタンと無情にドアが閉まった。
「イ〜ワ〜ン〜!!」
ドアの外から、ジェットの恨めしげな声が聞こえる。
『ダカラ、となかいハ要ラナイッテ言ッタロウ?』
広いベッドの真ん中で、イワンが呆れたように呟いた。
そして、長い砂色の前髪に隠れた瞳が、キラーンと光を放った。
『ヤッパリ来テクレタンダネ、はいんりひv』
ハインリヒの目の前で、フワフワとイワンの身体が浮かび上がり。
ポンと小さく音がして、イワンが少年の姿を取った。
「もちろん、キミ自身がボクへのプレゼントなんだよねぇ?」
ニコニコと屈託なくイワンは笑っているが、ハインリヒは何故か、その笑顔に危険を感じた。
というか、言っていることが既に恐ろしい・・・。
「いや、違うぞ!プレゼントは、ホラ、この袋の中に・・・」
言いながら、ハインリヒは青くなった。
プレゼントの袋は、ジェットに持たせていたのだ!
「袋って、どこ?」
ニーッコリとイワンが微笑む。
「プレゼントの袋はジェットが・・・!」
「ボク、トナカイには用はないんだよね〜v」
ずずいと、イワンがハインリヒに迫る。
思わず後退りすると、イワンが唇の端を曲げて笑った。
「この身体じゃ、ちょっと不便だな・・・」
ポン!
再び音がして、イワンが青年の姿になる。
「ハインリヒ」
長い腕が伸びてきて、ハインリヒの身体をさらった。
「ヒゲが邪魔だね・・・。これじゃあ、キスが出来ないよ」
器用にハインリヒの顔からヒゲを取り除き、イワンは再び笑った。
それから端正な顔が近づいてきて、ハインリヒは思わず目を閉じてしまった。
チュ・・・。
優しく口付けられ、不覚にもドキドキしてしまう。
「最高のクリスマスだよ。ねえ?」
耳元で囁かれ、閉じたままの瞼にキスが降りてくる。
「この衣装を脱がすのも、すっごく燃えるよね〜vvv」
(脱がされるのか!?)
往生際悪く、ハインリヒは思った。
「ズボンは穿かないでも良かったのに〜」
(そういうモノなのか!?)
不意に、
「ハインリヒ、ボクを見なさい」
そう言われ、ハインリヒは閉じていた目を開いた。
「集中してないでしょ。ダメだよ」
メ、とばかりにイワンが軽くハインリヒを睨む。
「キミはボクのモノなんだから、今はボクのコトだけ考えていればいいの」
砂色の瞳が優しく揺れて、ハインリヒは赤くなった。
「あ、赤くなった、可愛い〜vvv」
ヒョイとイワンに抱きかかえられ、抵抗する間もなくベッドに連れて行かれた。
「キミは、ボクだけのサンタクロースだもんねv」
イワンがペロリと舌なめずりをした。
「メリークリスマス、ハインリヒvそれでは、遠慮なくいただきま〜すvvv」
長身が、ガバッと覆いかぶさってくる。
(もう、どうにでもなれ・・・!)
なんて思っている自分は、やっぱりイワン馬鹿なのだと実感しながら。
ハインリヒは観念して、キュッと目を閉じるのだった。
〜 END 〜
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久々の14です〜vvv
最近24と44ばかりですが、やっぱり14も大好きなので、
楽しく書きました!!
(あまり14ぽくないかもですが、その点はお許しを)
14を読みたいと思ってくださった皆様、
ありのままの赤子状態がお好きでしたらスミマセン!
思いっきりトランスフォームさせてしまいましたので(汗)。
どにかくイワソ!イワソ〜!大好きだ〜!!
14はもう一作捻る予定ですvvv
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