プレゼント
(24)
**ハインリヒ乙女注意報。苦手な方はお避けください**
暦も12月に入り。
フランソワーズの買い物に付き合わされる。
「マフラーを編もうと思ってvうふ〜vvv」
と、ご機嫌なフランソワーズ。
色とりどりの毛糸玉を手に取っては戻し、真剣に物色している。
「ハインリヒ!ジョーに似合いそうな色を選んで頂戴!!」
そう言われて毛糸玉に目をやった時、柔らかなオレンジ色の毛糸玉が目に飛び込んできた。
そのオレンジ色の毛糸を手に取りながら、
「ジョーには白とか淡いクリームが似合うんじゃないか?」
答えると、フランソワーズはしばし思案して、クリーム色の毛糸を手にした。
「この色に決定!!」
毛糸玉を抱えてレジに向かうフランソワーズの後に、ハインリヒも続く。
オレンジ色の毛糸を持って。
「あら、ハインリヒもお買い上げ??」
フランソワーズの問いかけに、ハインリヒははにかみながら答えた。
「ああ。お買い上げだ。フランソワーズ、申し訳ないが、マフラーの編み方とやらをオレに教えてくれないか?」
パアアと、フランソワーズの顔が(ちょっとニヤリ的に)輝いた。
「もちろんよ、ハインリヒ!二人で頑張りましょvvv」
そしてモコモコの毛糸玉を抱え、ギルモア邸に戻る。
フランソワーズから、簡単にマフラーの編み方を学び、ハインリヒは自室で果敢に編み物にチャレンジ中であった。
『ハインリヒは初心者だし、一目ゴム編みを教えてあげるわv』
『何だ、それは・・・??』
『ちょっとばかり編み目が不揃いでも、あまり目立たないからオススメよ!』
という訳で、その編み方を教えて貰ったのだが。
「ダメだ〜!!!」
ハインリヒは叫びながら、編みかけのマフラー(とはまだ到底呼べない代物)を解いた。
自分を不器用だと思ったことは、あまりない。
料理だってそこそこ出来るし、掃除も洗濯も普通にこなせる。
だがしかし・・・!
「何なんだ、このチマチマした作業はっ!?」
ムキーとヒステリーを起こしていると、
「ハインリヒ〜?」
ドアの向こうからジェットの声が聞こえてきて、ハインリヒは慌てて、毛糸をブランケットの下に隠した。
「なっ、何だ!?」
ドアが開き、ひょっこりとジェットが顔を見せた。
「そんなに邪険にするなよ。デートしよう、デート」
「悪いが、今日はそんな気分じゃない。とっとと失せろ」
ついつい刺々しく言ってしまうと、ジェットはズガーン!?というような顔をしてヨロヨロと去っていった。
しかし、呑気にデートなどしている場合ではない。
溜息をつきながら、ハインリヒは悲しく毛糸玉を見やった。
ジェットの瞳と髪の色に良く似合うだろうと思って、ついつい買ってしまった毛糸玉だが。
「無謀だったかもしれない・・・」
ガックリと肩を落としながら呟いた後、自分を鼓舞するように、声に出した。
「いや、諦めるな、オレ!!毛糸が勿体無いぞ・・・!」
意を決して、ハインリヒは再び、編み棒を手に取った。
クリスマスイブ当日まで、ハインリヒと毛糸との戦いは続いた。
何とかマフラーと呼べる長さまで編み上げ、フランソワーズに仕上げ方を教えて貰って完成したそれは・・・。
自分で思っていた以上に、不恰好だった。
「大丈夫よ、ハインリヒ!アナタの手作りっていうだけで、ジェットは死ぬほど喜ぶと思うわっ!!」
フランソワーズの慰め(?)の言葉も耳に入らず、ハインリヒは悲しい気持ちで自室に戻り、ベッドの上にマフラーを放り投げた。
「プレゼント選びに失敗してしまった・・・。オレは、どうすればいいんだ・・・??」
絶望的な気分で、しばし考えた後、
「何か別のものを買ってこよう・・・。そうしよう・・・」
自分に言い聞かせるようにしてハインリヒは呟き、クリスマスムード一色の街に出掛けたのだった。
その晩は張大人が気合を入れて作った料理を皆で楽しみ、ハインリヒの大好きなケーキも登場した。
満ち足りた気持ちでお茶を飲んでいると、満面の笑みを浮かべたジェットがこちらに向かって歩いてくるのが見えた。
ハインリヒはハッと身構える。
「プレゼントは??」
両手をハインリヒに差し出し、キラキラと目を輝かせるジェットの手の平に、ハインリヒは小振りの箱を載せた。
けれども。
「・・・どうした?」
何だか不満そうなジェットの視線を一身に浴び、ハインリヒは居心地が悪くなる。
「もっと、別のモノがあるんじゃない??」
「ない」
言下に答えると、ジェットは更に不満そうな顔をした。
「あるだろ?」
「ない!!」
「マフラー・・・。あるよな、ハインリヒ?」
そう言って、ジェットはニッコリと微笑んだが。
その瞳は、笑ってはいなかった。
(なんでコイツは、こんなに本気なんだ!?とういうか、誰がマフラーの 存在をバラしたんだ!?フランか!?フランだな!?)
アワアワとしてしまい、答えられないハインリヒに、ジェットが迫る。
「オレのために、マフラー編んでくれたんだよな、ハインリヒ?」
「・・・・・・アレはダメだ!!」
一言叫び、ハインリヒはリビングから逃げ出した。
このままでは、ジェットに流されて、あのマフラーを出さねばならない羽目になるという予感がしたからだ。
バタバタと階段を駆け上がり、自室に飛び込もうとすると、上手い具合にジェットがスルリと一緒に部屋に入ってきた。
「どうしてダメなんだ?キミが、オレのために編んでくれたんだろ?」
『オレのために』を強調した言い方で、ジェットが問いかける。
「すごく・・・」
「すごく??」
「すごく不恰好なマフラーになっちまったからだ・・・!!」
自分は今、ものすごく情けない表情をしているだろう。
ハインリヒは、穴があったら入りたい気持ちだった。
そして、フランソワーズを恨んだ。
(フランめ、余計なコトを・・・!!)
ジェットの手の平が、ハインリヒに向かって伸びた。
「出してくれよ。絶対に欲しい。キミが編んでくれた、それだけでオレはもう、天に昇りそうなほど嬉しいんだけど?」
ブルブルとハインリヒは首を横に振った。
「出してくれるよな、ハインリヒ?」
今日のジェットは、いつもと一味違う、凄い迫力である。
「ダメだっつってんだろが!!失敗作なんだよ、アレは!」
「キミがダメって言っても欲しいの!!というかもう、寄越せって感じだな」
ジェットの瞳が、油断無く辺りを見回した。
そして、ジェットはニヤリと笑う。
「見つけた〜vvv」
クローゼットから飛び出しているオレンジのフワフワに、ジェットが手をかけた。
「ダメだ!絶対にダメだ・・・!!」
阻止しようとするハインリヒの手をヒョイと避けて、ジェットはクローゼットを開いた。
その手の中に不恰好なマフラーが納まり、ジェットは締まりの無い表情をした。
「あ〜v嬉しいvvvキミの手編みのマフラーvvv」
スリスリとそれに頬擦りして。
「肌触りも気持ちイイなvvv」
失敗作のマフラーを見られてしまったというショックで青くなるハインリヒに、ジェットはニコニコと笑って見せた。
「ありがとう、ハインリヒ。嬉しいよ」
言いながら、ジェットはフワリと、マフラーを首に巻いた。
「すごく暖かいし。キミの熱い愛がたっぷり篭っているから・・・かな?」
カーッと、ハインリヒの頬が赤くなる。
「これから、散歩に行こう。キミのマフラー、みんなに見せびらかしてやる」
「・・・見せびらかすような代物かよ、バカ・・・」
ボソリと呟くと、ジェットは優しく笑ってハインリヒの頭をクシャリと撫でた。
「首に巻いちまったら、形なんかもう、関係ないと思わないか?」
結局、流されてしまって、外に連れ出された。
星空の下、二人で白い息を吐く。
「ホント、暖かくて最高vvv」
マフラーに顔を埋めて、ジェットはひどく満足そうだ。
「こっちにおいで、ハインリヒ」
スイ、と、ジェットの手がハインリヒに差し伸べられる。
「二人で、暖かにならない??」
クスクスと笑いながら、ジェットがハインリヒ肩を抱き寄せて。
ハインリヒの首にも、フワリとマフラーが巻かれた。
「二人でラブラブマフラーvvvな、暖かだろ??」
「・・・バカ・・・」
思わずハインリヒが笑ってしまうと、
「やっと笑った・・・」
ジェットは嬉しそうな顔をして。
「これは、オレから」
ハインリヒにシルバーのリボンがかかった箱を手渡してくれた。
「??」
「オレからキミへ、愛を込めて」
ぼんやりと、ハインリヒはジェットを見つめた。
『キミへのプレゼントは、このオレだよ・・・』
その、お決まりの文句がなかった、ということが驚きだった。
しかし。
「プレゼントのオプションとして、このオレが付くんだぜ。凄いだろ?」
続けて飛び出した言葉に、ハインリヒは吹き出した。
「何で?何で笑うんだ!?オレは本気なんだけど・・・!」
「いや・・・それでこそ、お前らしいと思ってな・・・」
笑いが止まらないまま、ハインリヒはジェットを見上げた。
「マフラーは、仕方ないからお前にくれてやるよ」
「うん。サンキューな」
一つのマフラーに二人で包まり、そのままブラブラと散歩する。
「星がキレイだな〜。キミの方がもっとキレイだけれど」
「バカ」
冷たい外気に吐く息は白く凍ったが。
ハインリヒはポカポカ気分で、さり気なくジェットに寄り添った。
〜 END 〜
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はい!「プレゼント」は24でございました〜!!
ハインさんが乙女でスミマセン。
ベッタベタでスミマセン。
本当に、書いている生物だけが楽しんでおりますね・・・。
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