星の降る夜
(44)
「アルベルト」 何の前触れも無く、突然に目の前に姿を現す。 いつものことだ。 驚きに見開かれた淡いブルーの瞳。 いささか乱暴に、コートをその身体に被せるようにして。 白い左の手を取って、部屋の外に連れ出した。 冬の夜はひどく寒く、互いの唇から吐き出された息が白く凍るのが、夜目にも分かった。 「おい・・・!何のつもりだ??」 返事の代わりにニヤリと笑って見せて。 その人を包み込むようにして、ゾロリと長い、黒いコートの裾を翻した。 「ここは・・・?」 「さあな」 問われて無下にそう返すと、不満そうに顔を歪めた。 「そんな顔をするな。美しさが台無しになる」 「は?美しいとか、そういう寝言は寝てから言えよ」 そっぽを向きながらの連れない答えだったが、言葉尻に照れが入っているのが分かる。 ククク、と低く喉を鳴らして笑うと、その頬が赤くなった。 「何がおかしい!?」 「お前のその、愛らしい態度がだ」 サラリと返してやると、頬の赤みが増して、見ていて面白い。 ムキになって何かを言おうとする唇に、人差し指を押し当てた。 「少し黙って、空を見てみろ」 「??」 素直に、クリスタルの瞳が空に向けられて。 そして、丸くなった。 零れ落ちそうなほどの星が、漆黒の空を明るく彩っているその様に。 「美しかろう?お前に見せてやろうと思ってな。こうして、連れて来てやったという訳だ」 「すごく綺麗だ・・・」 何の変哲もない言葉が唇から漏れたが、何でもないその言葉が星空への感動を素直に表しているような気がして、思わず、笑ってしまった。 「気に入ったか?ならば、光栄だが・・・」 言いながら、褐色の指を重ねてパチリと鳴らした。 キラキラと輝きながら、星が空を流れて、降り注ぐ。 互いの髪が、明るく星明りを反射してきらめいた。 「星が・・・!!」 空に向かって伸ばされた手の平に星の欠片が落ちてきて、小さく光を放った。 「これは・・・夢なのか・・・?」 手の平の星の欠片を見つめながら、呟かれた言葉。 「紛れもなく、現実だ。今宵、夜空に瞬く星の全てを、お前のために・・・」 笑いながら答えると、降り注ぐ星達を見つめ、彼もまた笑んだ。 「綺麗だ。綺麗すぎて、他に言葉が見つからない・・・」 白く息を吐きながら、その人が近づいてきて。 そして、首にキュ、と腕が巻き付いた。 「ありがとう・・・」 小さく耳元に届いたその言葉に、満足する。 「人は、今宵を聖夜と呼ぶ。望みがあるなら、言ってみろ。今、私は気分がいい。何でも叶えてやるぞ・・・?」 フルフルと小さく、肩口で頭が横に揺れた。 そして、囁かれた言葉に、深く笑んで。 「お前の望むままに・・・」 まるでマントのように身体を包んでいる己のコートを広げ、彼の人を招き入れ、包み込んだ。 互いに、互いの温度が感じられる。 そのまま身体を寄せ合って。 二人、いつまでも、降り注ぐ星を眺めていた。 〜 END 〜 |
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ご希望が一番多かった、44で「星の降る夜」でございます。
ベッタベタになってしまってスミマセン、短くてスミマセン(気合だけは入れたはず!)。
だって、クリスマスだも〜ん!!と、訳の分からぬ言い訳を。
コートの中に恋人を入れてやるシチュが好きなので、鼻息荒く使いました。
久々に使用した黒様の不思議な力により、星が強制的に降らされていたり。
ご希望してくださった皆様のイメージに、少しでも添えていればいいのですが・・・。
イメージに合わなかったようでしたら、
コッソリと仰っていただければ改定いたします!!
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