うん、きっと二人がいい
(アンジェ:オスリモ)




 白い指先が、花びらを一枚、一枚とちぎっていく。
「今日はオスカー様が帰ってくる、帰ってこない、帰ってくる・・・」
 ヒラヒラ、ヒラヒラ。
 白い花びらはふわふわと宙を舞い、床に散らばって行く。
「帰ってこない・・・!」
 最後の花びらをちぎり終えて、、アンジェリークはぷうと頬を脹らませた。
 花びらをむしり取られて可哀想な姿になってしまった花に、ゴメンね、と謝りながらも、その表情は彼女にしては、珍しく不機嫌だった。
「予定の日はずっと過ぎているのに!!お仕事だって分かってるけど・・・でも・・・」
 オスカーはとある惑星で開催されている会議に出席するために、家を空けていた。
 予定は3日。けれども既に、7日を経過しようとしている。
「お気持ちは分かりますけれど、あちらでの会議が難航していると聞きましたわ。きっと、もう少しでお帰りですよ」
 苦笑しながら、メイドのシャルロッテが紅茶のカップを差し出してくれれた。
「アンジェリーク様のお好きなキャロルを淹れましたわ。お好きなお店のイチゴタルトもお取り寄せしました。どうぞ召し上がれ」
「・・・ありがとう、いただきます」
 甘くイチゴの香りが漂う紅茶と見た目も鮮やかなイチゴのタルトは、通常であればアンジェリークを十二分に楽しませてくれるアイテムのはずだった。
「はぁ。いつもなら、もっと美味しいのになぁ・・・」
 紅茶もタルトも、いつもよりずっと、味気なく感じられ、アンジェリークは泣きたくなった。
 タルトにはほとんど口をつけず、紅茶を一口二口、申し訳程度に口に含む。
「オスカー様のバカっ!嫌い・・・!」
 ブツブツ言いながら、ほんの少ししか欠けていないイチゴのタルトに乱暴にフォークを突き刺した。
 その時。
 玄関口が、ザワザワと騒々しくなった。
「??」
 何事かと思っていると、部屋の戸を蹴破りそうな勢いで、シャルロッテが現れた。
「アンジェリーク様!オスカー様がお帰りですよ!!」
「本当!?」
 勢い良く立ち上がり、アンジェリークは玄関に向かってパタパタと駆けた。



「オスカー様〜!!!」
 呼びながら駆け寄ると、アイスブルーの瞳を優しく細めて、オスカーがアンジェリークを見つめた。
「俺のお姫様がオカンムリだと聞いてね。取り急ぎ、戻ってきたぜ?」
「遅いです、バカバカ!!」
 ボフンと広い胸の中に飛び込むと、
「おっと・・・・・・淋しかったのかな、レディ?」
 ギュッと抱きしめられ、アンジェリークは安堵した。
 そして、髪をかき混ぜるようにして撫でられる。
「おや・・・。お姫様は、甘いイチゴの香りがするな・・・」
 その言葉に、アンジェリークはハッと、置き去りにしてきたイチゴのタルトを思い出した。
「もうもう、オスカー様のせいで、大好きなイチゴのタルトも美味しく食べられなかったんですからねっ!!」
「それは申し訳ないことをした」
 笑いを含んだ声が聞こえて。
 ヒョイとそのまま、抱きかかえられる。
「キャッ!?何するんですか、オスカー様〜!?」
「愛しい姫君に、イチゴタルトを美味しく召し上がってもらおうと思ってね。・・・シャルロッテ」
「何でしょう、オスカー様」
「悪いが、この姫君のお茶を淹れなおしてくれないか。俺には・・・夏のキャッスルトンを」
「オスカー様、放してください〜!!」
 往生際悪くジタバタとするアンジェリークを見て、クスクスと笑いながら。
「承りました」
 シャルロッテは奥に引っ込んだ。
 そのまま、先ほどまでタルトを突いていた部屋に連れて行かれて。
「随分と、今日はお行儀の悪いお嬢さんだな・・・?」
 からかうような口調に、アンジェリークはむくれて見せた。
「オスカー様が、お約束の日に帰っていらっしゃらないのがいけないんですっ!!」
「はいはい、そういうことにしておこうか、アンジェリーク」

 やがて、シャルロッテがお茶の乗ったワゴンを引いてくる。
 ソファにゆったりと腰掛けるオスカーの膝の上にちょこんと乗ったまま、アンジェリークは改めてタルトをつついた。
「幸せの味〜vvv」
 タルトに幸せを感じる事ができる喜びを、アンジェリークはひしひしと噛み締めた。

 オスカー様が側にいないと、何もかもが味気ない。
 側にいてくれると、何もかもがキラキラしてる。

「今度のご出張の時は、陛下にお願いして、私もご一緒させていただこうかな〜」
 ボソリと呟くと。
「そうだな・・・。俺一人より、きっと・・・君と、二人がいい」
 アンジェリークにはパンチが効きすぎているキャッスルトンの紅茶を優雅に飲みながら、オスカーがしみじみと肯いた。
 その言葉に嬉しくなり、アンジェリークは思いっきりオスカーに甘えたくなった。
「オスカー様v」
「どうした?」
「タルト食べさせてくださいv」
 苦笑しながらも、オスカーはタルトをフォークに刺して、アンジェリークの口の中に入れてくれた。
「オスカー様が食べさせてくださると、倍美味しいですvvv」
「・・・それは光栄なお言葉だな」
 顔を見合わせて、二人でクスクスと笑いあった。

 どんな些細な事でも一緒にいるだけで嬉しく感じる事ができるから。
 だから、きっと、二人でいるのがいい。

 そんな事を思いながら。


  〜 END 〜




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アンジェはオスリモです。
あんまり甘くなりませんでした、スミマセン(涙)!!
久々に書いたけれど、楽しかったです〜。
アンジェがお好きな皆様にも、楽しんでいただけたなら幸いです。






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