ぼくがきみのかさになろう
(タジハナ:おおふり)




 練習が終わる間際からぽつりぽつりと降り出した雨は、部誌を書き終える頃には大粒になっていた。
「花井、チャリ取って来るから待ってて!」
 バタバタと田島が駐輪所に向かって駆けていく。
 その後ろ姿を見送りながら、花井は部室に鍵をかけた。
 田島と、途中まで一緒に帰る。
 それは、今や何となく習慣になりつつある事だった。
 どんよりと歪んだ空を眺めながら、
「あー、オレ、雨って嫌い」
 花井はぼそりと呟いて、田島を待った。



 傘をさしながら自転車を押す田島。
 横殴りの雨。
 並んで、花井も歩く。
(オレ、何か悪い事したかなぁ・・・)
 などと思いながら。
 布製のスニーカーは、既にびしょびしょで、物悲しい気分になる。
「オレ、雨って嫌い・・・」
 うんざりとしながら、もう一度、その言葉を口に出す。
 すると、まるで嫌がらせのように強い風が吹いて、花井の傘をひっくり返した。
「うわ〜!?」
 華奢な折りたたみの傘は、ひとたまりもなく、ボロボロの姿になった。
「嘘だろ・・・」
 無残な姿になってしまった傘を呆然と見つめていると。
「花井!」
 名前を呼ばれた。
「何だ?」
「そのカサ、もうダメだろ?オレのに入んなよ」
 言いながら近づいてきて、ひょいと傘を花井の頭上に持ち上げた。
 自分が濡れるのはお構い無しだ。
「ばっか!お前が濡れるだろ?大事な四番に風邪をひかせたら、阿部にどやされる・・・」
「オレは花井を濡らしたくないよ・・・!」
 田島の瞳が真っ直ぐに見つめてくる。
 その視線に、花井は弱かった。
「・・・傘、オレが持ってやるよ」
 パシッと田島の手から傘を奪って。
 少しでも互いが濡れないように、田島の側に寄った。
 そして二人は、再び歩き出した。

「オレ・・・カサになりたいよ・・・」

 不意に呟かれた声に、
「はあ?」
 間の抜けた返事を返すと。
「オレなら絶対に、折れたりしない。大きく広がって、花井を雨から守ってやる」
 ごくごく真剣に田島の唇から零れた言葉は、花井を赤面させた。
「雨からだけじゃない。この世の全ての悲しみや嫌なコトから、花井を守ってやる・・・!」
「はいはい、ありがとな」
「・・・花井、本気にしてないだろ?」
 黒々とした瞳に、剣呑な光が宿ったと思ったら。
 片方の腕で、グイ、と抱き寄せられて。
 傘の中で、二人の唇が重なった。

 好きだ好きだと言われ続けて、何となく他の誰よりも一緒にいて。
 そんな田島との、初めてのキス。
 初めての・・・。

 ポトリ。
 傘が、花井の手から地面に落ちた。
「・・・・・・・・っ!!」
 両手で唇を押さえ、赤くなる花井に、田島はニッと不敵に笑いかけた。
「オレ、花井のカサになるよ!だから、花井はオレのモノになって!」
『どういう脈絡があるんだ〜!?』
 と思いっきり突っ込みたかったが、パクパクと口を動かすだけで何も言えない。
 田島はニッコリと天下無敵の微笑をその頬に浮かべて傘を拾い上げ。
 呆然としている花井に握らせてから、自転車にまたがった。
「カサ、花井にやるよ。帰ったら、暖かくしろよ?じゃ、また明日な!!」

 軽やかに、自転車が遠ざかっていく。
「いつも自分の気持ちだけ押し付けやがって・・・バカヤロ・・・」
 呟きながら、自身の頬に触れると。

 頬が燃えるように熱い・・・熱い。



  〜 END 〜




−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

タジハナは、ちょっと甘さ控えめですね〜。
まだテレがあるようです(笑)。
いずれベッタベタの話を書くようになると思いますが、
しばらくは初々しい(?)二人でv






ブラウザを閉じてお戻りください。