7 安息




 コンコンコン。
 執務室の扉を、三度ノックする。
「失礼しま〜す」
 開けたドアの扉から擦り抜けるようにして、執務室の中に足を踏み入れた。
「クラヴィス様、育成のお願いに・・・」
 途中まで言ってから、アンジェリークはクラヴィスの様子がいつもと違うことに気付いた。
「クラヴィス様??」
 執務机に肘を付いて。
 頬杖をしたまま、クラヴィスはピクリとも動かない。
 いつもなら、アメジスト色の瞳がアンジェリークに向けられるというのに。
 ・・・例え、多少機嫌が悪い時にでも。
「クラヴィス様〜?」
 名前を呼びながらクラヴィスの側に歩み寄ったアンジェリークは。
「・・・あら」
 呟いて、クスリと笑った。
「お休みでいらっしゃったのね・・・」
 いつも難しい顔をしているクラヴィスだが、その寝顔は驚くぐらいに穏やかだった。
 彼の司る力は『安らぎ』。
 けれども、アンジェリークは時折思うのだ。
 人々に安らぎをもたらす闇の守護聖。
 彼自身が、その『安らぎ』を感じることは、少ないのではないかと。
 いつでも物憂げな光を湛えているアメジストの瞳を見る度に。
(最近、少し笑ってくださるようになったけれど・・・)
 その微かな変化が、アンジェリークには嬉しかった。
 少しでも、クラヴィスが自分に笑みを見せてくれることが。
(笑ってくださるっていうことは、その時は少しは楽しい気分でいらっしゃるのよね・・・??)
 笑顔は、人生を潤す。
 それが、アンジェリークの持論だった。
 辛い時にでも、出来るだけ笑顔を絶やさずに。
 そうすれば、少しは辛さも紛れると思っているから。
(だから、クラヴィス様にも、もっと笑って欲しいな・・・)
 そんなことを思いながら、アンジェリークはクラヴィスの寝顔をまじまじと見つめた。
 あまりにも柔らかなその表情に、自分の心も優しくなったような気がした。
「クラヴィス様って、本当はとってもお優しい方なんですよね。私は、知ってますから」
 クラヴィスの漆黒の髪にそっと手を触れながら、アンジェリークは呟いた。
「だからもっと、ご自分の感情を表に出した方が良いですよ。そうした方が、ずっとみんなに伝わりやすいと思いますから・・・」
 クラヴィスの髪を撫でながら、アンジェリークは優しく、瞳を細めた。




 眩しい金の光に、目がくらみそうだ。
 光の中に、一人の少女が立っている。
 柔らかな金の髪と、若草色の瞳。
 彼女はニコリと笑って、クラヴィスの名を呼んだ。
『クラヴィス様・・・』

「・・・アンジェリーク!!」
 自分の声に、自分で驚いた。
「はっ、はいっ!?」
 突如として耳に届いたその声にも驚いた。
 視線を前方に飛ばすと、金の髪の女王候補が目の前で瞳を丸くしている。
「・・・アンジェリーク?」
「はい」
「お前は、ここで何をしている?」
 屈託無く、アンジェリークは笑った。
「育成のお願いに来ました」
「で・・・?」
「えっと、クラヴィス様がお休みされていたので、目を覚まされるまでお待ちしていようと・・・」
 ギロリと睨みつけてやると。
 しろどもろどろになって答える少女の姿に、クラヴィスは堪えきれず笑った。
「くくっ・・くっくっく・・・」
「あの、クラヴィス様?」
「私が目覚めなかったら、お前はどうするつもりだったのだ?」
「あ〜っ!?」
 若草色の瞳が、ますます丸くなった。
「そこまで考えてませんでした・・・」
 面白い少女だと思う。
 何の打算もなく、生きている。
 そして、屈託のない表情で、明るく笑う。
 ・・・まるで太陽の光のように・・・。
「お前といると・・・」
「はい?」

『安心できる』

 口には出さずに、心の中でクラヴィスはそう呟いた。
「おかしなクラヴィス様」
 アンジェリークが、小首を傾げる。
「まあいい・・・。ところでお前は、育成を頼みに来たのだったな?」
「あ、はい!」
「折角来たのだ。少し、話でもしていくといい・・・」
 キラキラと、アンジェリークの瞳が輝いた。
「クラヴィス様がご迷惑でなければ!」
「迷惑ならば、話をしろなどと言わぬ・・・」
 いつもより、自分の口が滑ると思ったが。
(まあ、それも悪くは無い・・・)

『お前といると、私は落ち着くのだ』

 決して口には出せずに。
 けれども、それは紛れも無い事実。
 アンジェリークが、他愛もない事を話し始める。
 その話を聴きながら。
 アンジェリークを見つめるアメジストの瞳が、優しい光を放った。



〜 END 〜





クラリモです!
アンジェでは管理人の最も好きなCPですvvv
なので、愛ばかりが先行して、
いつもなかなか上手く形にできないCPです・・・。
今回も・・・(涙)。愛だけはてんこ盛りなんですが・・・。
アンジェはランリモもクラリモも、
守護聖様とリモちゃん、両方の視点が入りました。
読んで下さった皆様に、お気に召していただけましたでしょうか?

これにて、3周年企画の一週間的お題、一週間でフルコンプですvvv
お付き合いくださってありがとうございました〜!!
結構キツかったけど、達成感は格別です!





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