2 熱情
チリチリと心の奥底で燻ぶる想い。
日に日に、胸が焦がれていく。
訳が分からない。
何の感情も映さない、ただ美しいだけの瞳が。
癪に障る?
違う・・・違う・・・。
これは、もっともっと別な感情。
心の奥底から湧き上がって、チリチリとこの胸を焦がす、この想いは・・・。
迫り来る砲弾の前に、立ちふさがる姿。
助けなければ・・・。
そう思ったが。
「004!!」
不意にオレを振り向き、彼は微笑んだ。
それは。
今まで見たことも無いような、透明な笑顔。
「004・・・!!」
激しい爆音。
その姿が硝煙の中で掻き消えた。
『テストは中止だ!』
『002!004を回収しろ』
通信機を通して、様々な声が聞こえてくる。
オレは、彼の姿を探し・・・。
「004!?」
視界に飛び込んできた、その身体の損傷の激しさに息を飲む。
駆け寄って、抱き上げた。
「004!!」
薄っすらと、瞳が開かれた。
透き通ったキレイな瞳が。
「002・・・頼む・・・・」
形の良い口唇から、途切れ途切れに言葉が紡がれた。
「オレを・・・助け・・よ・・なん・・・・。思・・・な・・・・・」
瞼が閉じられ、ガクリと首が垂れた。
「004!!!」
『オレを助けようなんて思うな』
なんてなんて。
残酷な言葉なのだろう。
手足が失われた、細い身体を抱きしめた。
「死なせてなんか・・・やらねえよ・・・」
ジェットエンジンに点火し、急いで研究所へと・・・。
キレイな身体を、ベッドに横えている。
千切れていたはずの左の手。
太ももから亀裂が入っていた両の足。
瞳を閉じたまま、眠っている。
その身体が安置されている部屋に、足を踏み入れた。
カツカツと。
自分の靴音が、妙に甲高く当たりに響くように思えた。
「よう、004・・・」
真上から、見下ろした。
キレイな顔で、眠っている。
・・・なかなか目覚めてはくれない人。
その顔を見つめていると。
まただ。
燃え上がる炎に、胸を焦がされるような想い。
例え、キミが望まなくても。
オレの命を、キミに分けてやる・・・。
キミに、あげるよ。
冷たい口唇に、自分のそれでそっと触れた。
どうしようもなく湧き上がってくるこの熱い想いを、キミに吹き込んで。
そして、我が身を燃やすような想いの意味を知った。
オレは、この人を・・・。
口唇を離すと。
まだ目覚めないキミの目尻から、涙が零れ落ちた。
「ヒルダ・・・」
薄く開かれた唇から漏れた名前にドキリとした。
それは・・・キミが愛した女性の名前・・・?
オレは、キミのその人にはなれないだろう。
分かっている。
けれども、その人とは別の、特別な誰か、にはなれるかも知れない。
そう、なりたいと願う。
自分の気持ちが、分かってしまったから。
何かを探すように宙に伸ばされた手を取り、自分の両の手の平で包み込んだ。
大切に、大切に。
「004・・・」
名前も知らない。
けれども・・・。
「004?」
キミを、キミを・・・。
「助けるなと。オレは、そう言わなかったか?」
冷たい瞳が、オレを詰るけれど。
「死なせてなんか、やらない」
真っ直ぐにその瞳を見つめ、オレはキッパリと告げた。
「キミには嫌でも生きててもらうぜ。オレのために。キミはオレに対して、責任を取る義務がある」
「責任?何のだ??」
「・・・教えない」
こんな言葉で繋ぎ止められるとは思わない。
胸の中で渦巻く想い。
受け止められるのは、キミだけだ。
キミが、オレにそんな感情を植えつけたのだから。
「責任、取れよ」
「だから、何のだ!?」
「教えないって、言わなかった?」
小さな舌打ちの音。
苦々しげに、オレから顔を背ける。
「なあ、004・・・」
「・・・何だ?」
細い身体を、フワリと抱きしめた。
「!?」
「生きてくれよ・・・オレのために。・・・キミのために」
この想いに、心まで焼かれながら。
ただ、キミだけを守ろう。
「こんな世界で・・・」
「生きていたくない、なんて、言わないでくれ・・・」
抱きしめた腕の力を、強くした。
気が遠くなるぐらいの長い時間を、キミと生きて。
キミは今でも、オレの側にいる。
「ハインリヒ」
名前を呼ぶと、オレを振り向いて。
淡いブルーの瞳を細め、穏やかに微笑んだ。
「ジェット・・・」
キミの心には今でも彼女が生きていて。
オレは、彼女にはなれなかったけれど・・・。
腕の中に、キミを抱きしめる。
オレは、キミにとって、『特別な誰か』になり得たのだろうか?
冷めることのない、この思い。
今でも、オレの胸を熱く焦がす。
きっと、これからも。
腕の中から見上げてくる、優しい瞳の色が愛しくて。
もっと抱きしめて。
そして。
キミに、キスを贈ろう。
〜 END 〜
全然甘くなりませんでした!スミマセン!!
結構暗いまま終わってしまい、ラブイチャ度50%カット(当社比)。
という感じでしょうか??
もう一本の方は、ベタ甘ラブイチャで書こうと思っていますので、
なにとぞご容赦を・・・。
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