ひらり





 満開の桜の花は、実に美しい。
 とてとてと桜並木を歩きながら、ハインリヒはしみじみと思った。
 日本に住んでいて良かった・・・!ありがとう、日本!!
 そう叫びたくなるぐらいに、目の前に広がる景色は圧巻だ。
 僅かに湿ったような匂いがする春の優しい風に吹かれて、さわさわと桜の木々が揺れている。

 薄紅色の花びらが、ひらり、ひらり。

 散り行く様も、また美しい。
 ハインリヒは満足げに目を細めた。

 ふと。
 視線の先に、人の影。
 徐々に徐々に、近づいてくる。

 ひらり、ひらりと舞う桜の花びら。

 白く霞がかかったような、そんな中から現れたのは・・・。
 ハインリヒの表情が緩んだ。

「シュヴァルツ!」
 思わず名前を呼んでしまうと、
「おやおや、随分と熱烈な歓迎だな、アルベルト?」
 クスリと、目の前に現れた男が笑った。
 からかうようなその口調に、少しばかりカチンと来る。
「別に、歓迎なんかしてないぞ。お前が突然現れたから驚いただけだ」
「それにしては、嬉しそうな顔での出迎えだったぞ?」
「黙れ」
 言葉で軽くじゃれ合う二人の周りを、ひらひらと桜の花びらが舞っている。
「しかし、今の時期、この並木道の景色は圧巻だな・・・」
 おお!シュヴァルツにもこの美しさが分かるのか!!
 嬉しくなって、ハインリヒはコクコクと頷いた。
「お前のその意見には大賛同だ。桜は本当に美しい。気高く凛としていてしっとりと優しい感じがする」
「・・・・・・・・・」
 何の反応もなかったので、ちょっとロマンチックに語りすぎたかと、その表情を伺うと。
 シュヴァルツはまじまじと、ハインリヒを見つめていた。
「・・・な、何だ?」
 恐る恐る尋ねると、シュヴァルツがフッと表情を和ませた。
「お前の桜の例えは、お前自身を例えているようだな・・・」
「な・・・っ!アホなコトを抜かすな!桜に対して失礼だ!!」
「そうか?私はそうは思わんがな・・・」
 なおも何か言いかけるのを遮るようにして、
「早く帰るぞ!!」
 スタスタとシュヴァルツの脇を通り過ぎようとすると、スイと、褐色の手のひらが伸ばされて、ハインリヒのそれを掴んだ。
「おい、シュヴァルツ・・・」
「何だ?」
「お前は一体、何がしたいんだ・・・?」
 呆れたように、返された。
「見れば分かるだろう?手を繋いだのだ」
 確かに、見れば分かる。見れば分かるのだが・・・。
 ハインリヒの心の中を見透かすようして、シュヴァルツが口を開いた。
「何か意図がなければ、私はお前と手を繋いではいけないのか?」
 どこか拗ねたような物言いに、ハインリヒはクスリと笑って。
「お前と手を繋ぐのも悪くないな」
 きゅ、とシュヴァルツの手を握り返した。
 大の大人が二人で手を繋いで歩いている。
 傍から見ると思い切り寒い図かもしれないけれど。

 繋いだ手と手から伝わる温もり。心もぽかぽかと温かだ。

 視線と視線をぶつけて、クスリと笑い合った。

 薄紅の桜吹雪の中、歩幅を並べて歩く。
 花霞の先に見えるのは・・・二人一緒に、帰るべき場所。




  〜 END 〜




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短すぎてスミマセン、という感じですが、やっぱり3月は桜、というコトで・・・。
ここは何処なんだろう、アハハ、ウフフ。
という突っ込みはご容赦くださいませ。
書いた本人が一番そう思ってますので・・・(涙)。
きっとね、日本にある黒4の別荘だと思うんですよ!!
すっごい美しい桜並木ごと所有。
私有地だから、誰も入れない、ってね!!
手を繋ぐ44が大好きです。
二人まとめて愛おしくて仕方ありません。






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