ギルモア株式会社、情報システム部。 今日はシステムトラブルもなく、平和な1日の始まりかと思われた。 が。 「何だって〜!?」 無風のはずの情報システム部に、アルベルト・ハインリヒ(30)の絶叫が響いた。 グハァと頭を抱えるハインリヒの隣で、 「あらぁ。知らなかったのハインリヒ?」 ホホホと涼やかにフランソワーズが笑っている。 「今日はシュヴァルツ課長のお誕生日で〜す(はあと)。私達、課長ファンクラブ女子職員は、お昼に課長のお誕生昼食会を開くのよ〜vうふvvv」 ギルモア株式会社・システム運用課長のシュヴァルツは、今日も軽やかに自社ビルの自動ドアをくぐった。 「課長、おはようございますv」 受付嬢のヘレンとビーナがニコニコと挨拶をしてくる。 「うむ、おはよう。今日もいい笑顔だ。受付嬢は笑顔が肝心」 こちらもにこやかに挨拶を返すと、 「今日はお誕生日ですねvおめでとうございま〜すvvv」 突然言われて、些か驚いた。 「キャv課長が驚いてるわ〜vvv」 「驚いてる顔も素敵っ!」 手と手を取り合って、二人がキャッキャと喜んでいる。 「ありがとう、フロイライン達。私の誕生日をわざわざ覚えてくれているとは痛み入るな」 「だってv」 「ねえ?」 ここしばらく新システムの導入などでバタバタしていたため、今日が自分の誕生日だったことをすっかり忘れていたシュヴァルツであった。 そうか、今日は誕生日か・・・。 などと思いながら自席に着くと、部下のフランソワーズがニーッコリと微笑みながら傍らにやてきた。 「おはようございます、課長!」 「おはよう」 「今日は課長のお誕生日ですよねv女性職員の有志でお誕生日の昼食会を開きたいのですが、本日のご都合はいかがですか?」 「それはそれは・・・」 「課長を驚かせようと思って、当日のご案内になってしまったことはお詫びします」 「フロイライン達の気持ちが嬉しいぞ。喜んでご一緒させていただこう」 笑いながら答えると、 「わわっv嬉しい!みんな喜びますわ〜vvv」 フランソワーズの表情がパッと華やいだ。 幾つになっても、人から祝ってもらえるのは嬉しいものである。 「課長、今日が誕生日なんですか?おめでとうございます!!」 ジェットからも祝福の言葉を貰い、どことなくほんわかした気分になったシュヴァルツであったが。 不意に、近場から暗雲漂う気配を察知した。 視線をそちらに飛ばすと、アルベルト・ハインリヒ(30)が、どよ〜んとした雰囲気の真っ只中に埋もれていた。 「アルベルト、どこか調子でも・・・?」 尋ねてやると、悲壮な表情で直立不動の姿勢を取った。 「課長!申し訳ありません!!今日が課長の誕生日だとは露知らず・・・!!」 今にも、土下座をしそうな様子である。 「たかだか上司の誕生日だろう?お前がそんなに気にする必要はないのだぞ」 「ですが、課長がこの世に生を受けた大切な日です!!オレだって、ちゃんとお祝いがしたかったのに・・・!!!」 グハァとハインリヒが頭を抱えている。 「分かった。分かったが、お前の気持ちだけで十分だ。ありがとう」 打ちひしがれているハインリヒが可哀想になり、くしゃりと頭を撫でてやると。 ボン!と音を立てそうな勢いで赤くなった。 可愛い男である。 シュヴァルツは、自宅に持ち帰って美味しくいただいてしまってもイイぐらいには、この男を気に入っていた。 ぶっちゃけ、ハインリヒのコトを自分の所有物だと思って疑っていない。 ハインリヒの方がシュヴァルツにゾッコンラブなのだから、それも仕方のないことであろう。 思いっきり慕ってきてくれて、本当に可愛い男だ。 「さあさあ、お前達。私の誕生日を祝ってくれる気持ちは嬉しいが、それよりもしっかりと業務に取り掛かりなさい。システム運用に油断は禁物。今日もしっかりと頼むぞ」 「はいっ!」 「了解でっす!」 「は〜いv」 三人三様の返事が戻ってくる。 自社システムを守るための業務が、本日も開始された。 その日は一日、おめでとうの嵐だった。 同僚のカール課長や上司のコズミ部長、エッカーマン副部長からもお祝いを言われてしまうし、昼休みは大勢の女性職員に囲まれてお誕生日おめでとうございます昼食会を開催してもらった。 昼食会に出かける際に、 「フランソワーズの卑怯者〜!!!」 などと、ハインリヒが絶叫していたが・・・。 会議室へ向かう途中の廊下でも、誰かしらに呼び止められて、 「おめでとうございます!」 と言われてしまう。 「流石は課長・・・!絶大な人気を誇っておられる・・・」 隣を歩いているハインリヒが、何故か感動に打ち震えている。 私の個人情報のはずなのに、どうしてこれほどに・・・? と、首を傾げたくなるほどの祝われ具合だ。 その質問を何気なくハインリヒに投げかけてみたところ、 「当然ですっ!!課長が生まれた聖なる日なのですから、万人が祝うべきなんです!!」 などと力説され、問い掛ける相手を間違えたな、と思いながら、 「そうか・・・」 と答えてやって。 朝と同じように、よしよしと頭を撫でてやった。 さらりとした髪の感触が心地よくて、しばらく撫で続けていると。 ハインリヒが困ったような顔をして俯いて、その様も実にほほえましかった。 「アルベルト。お前は本当に可愛い奴だな」 髪から手を離しつつそう言うと、 「課長!ご冗談はやめてください!!」 真っ赤な顔で睨まれてしまった。 やはり、可愛い男である。 そんなこんなで、お祝いムード満載の気持ちの良い雰囲気で一日が終わると思われたが・・・。 「課長〜!!関西支所でサーバがやられました!!」 「キャー!ちょっとちょっと〜!ディスクが同時に2本ダメになってるわ〜(涙)。ダメだわ、このサーバはもうお仕舞いね・・・」 「叫んでないで、さっさと保守業者に連絡!」 サーバは基幹となる機器であるからして。 自社ではディスクが1本逝ってしまっても他のディスクでシステムを動かし続ける仕組みを構築しているのだが。 「・・・2本同時に逝ってしまったのでは、仕方ない。徹夜も辞さぬ覚悟で復旧のために動くしかあるまいな」 「課長!オレに担当させてください!!」 ビシッと素早く、ハインリヒが挙手をした。 「よろしい。お前に任せよう」 「はいっ!お任せくださいっ!!」 そんなこんなで、夜の執務室。 現地とやりとりしながらサーバの復旧がようやく終了し、シュヴァルツとハインリヒは顔を見合わせてホッと息を吐いた。 「思ったより早い復旧で良かったですね、課長」 「そうだな。日を跨ぐかと思っていたが・・・。何とか、その日中に終わったか」 じーっと。 ハインリヒが、シュヴァルツを見ている。 「どうした?」 尋ねてやると、どこかもじもじとしながら言った。 「せっかくの誕生日の晩だったのに・・・。ご予定とかは無かったんですか?」 その言葉をフンと鼻先で笑い飛ばした。 「予定を入れるには、この私の相手をしてくれるという奇特なフロイラインを探すことから始めねばならんな」 「そんな、課長なら選り取り見取りでしょうに・・・」 ボソボソと、ハインリヒがそんなことを言っている。 「誰を選んでも良いと言うのなら、私はお前を選んでみようか?」 またもや、ハインリヒが赤くなって。 一人で、ワタワタとしている。 「また課長は、そんな冗談を・・・!!からかうのはやめてください!」 「本気だと言ったら?」 そう問うと、更に赤くなって口をパクパクさせた。 酸欠の魚の如し、である。 この初々しいところが、良い。 「私がお前がイイと言っているのだ。何の問題がある?」 赤くなっている頬に、スイと手を伸ばして。 「お前からはまだ、何も貰っていなかったな。お前本人を持ち帰りで手を打ってやってもいいが・・・。どうだ?」 「課長が、お嫌でなければ」 「では、決定だな」 チラリと、シュヴァルツは壁の時計に視線を走らせた。 誕生日の一日が、あと数分で終わろうとしている。 「アルベルト」 「はっ、はいっ!?」 名前を呼ぶと、直立不動の姿勢を取るのが面白い。 クックと笑いながら、チュ、と軽く口付けると。 「かかかかかかか、課長!?」 アワアワと、ハインリヒが仰け反った。 哀れなほどに狼狽している。 「私の誕生日が終わってしまう前に少し、と思ってな」 悪戯っぽくパチリとウインクを投げてやると、 「課長なんて、課長なんて・・・」 「私が何だ?」 「・・・・・・・・・大好きです」 アハハとシュヴァルツは大きな声で笑った。 こんなに笑うのは久し振りだ。 「アルベルト。お前はやはり、面白い男だな。見ていて飽きないぞ」 ポンと頭に手を載せて。 「帰り支度を」 そう命じると、 「はいっ!!」 またもや直立不動の姿勢を取った。 シュヴァルツの前でガチガチの部分も・・・。 まあ、少しずつ慣らしていけばいい。 お持ち帰りの品は、遊び甲斐がありそうだ。 そう思って、ニヤリと、シュヴァルツは笑んだ。 〜 END 〜 |
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何か、ダラダラとしたお話になってしまいました・・・。
ううう〜ん。課長視点は難しい・・・。
モテモテな課長が書きたかっただけ、というのがバレバレですか(笑)?
最後は4とラブラブお誕生日〜v
というコトで、なにとぞ。
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