黒いヴェール




 昼間は重く閉じたままの、執務室のカーテン。
 日の光が嫌いであるとかそのような訳ではないが、自分には眩しすぎると思う。

 クラヴィスは執務机から離れ、窓際に歩を進めた。
 重たいカーテンを、開く。
 太陽が影を潜め、空には夜の帳が降り始めている。
 空が次第に黒いヴェールを纏っていくその様子を、クラヴィスは黙って見つめていた。

 どれぐらいの時間、そうしていたのだろうか。
「クラヴィス様・・・」
 物静かな声で名を呼ばれ、クラヴィスは声の主に視線をあてた。
 水色の髪が、ぼんやりと闇の中で光る。
「・・・リュミエールか・・・。何用だ?」
「まだ執務室にいらっしゃるようでしたので、少し気になってしまいました。お帰りにならないのですか?」
「空に、夜の帳が落ちる様を眺めているのだ」
 二人が会話をしている間にも、空は刻々と、深く闇に包まれていく。
「今日のような夜は・・・空に、黒いヴェールが下りているようですね」
 リュミエールの言葉に、クラヴィスはフッと、頬を緩めた。
「私もそう思っていたところだ・・・」
 そして二人は黙り込んだ。
 空に、黒いヴェールが落ち切るまで。

 やがて空は、完全に暗くなり。
 月明かりと瞬く星だけが、光を放っている。
「リュミエール、一曲所望しても構わないか・・・?」
「仰せのままに」
 リュミエールの指が、ハープを奏で始めた。
 その優しい音色を聴きながら、クラヴィスは大きく窓を開け放った。
 美しいハープの音が、闇夜に静かに流れていく。
 クラヴィスはそっと目を閉じ、流れていく音色に、心をたゆませた。


〜 END 〜




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思いもかけず、リュミ様のご登場です。
二人でいる空間は、きっと穏やかであると思うのです。
クラ様が、心をゆったりとできる一時。
そんなイメージで書きました。





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