眠る街角




 夕焼けが、森の湖の湖面を赤く染め上げる。
 少女と二人、クラヴィスはその様を眺めていた。
「そろそろ・・・」
 寮まで送ろう、と、そう言おうとしたが。
 少女の瞳に見つめられ、クラヴィスはその言葉を封印した。
 もう少し、一緒にいたいと思う。
「・・・今日は、私の気に入りの場所に連れて行こう・・・」
 クラヴィスの言葉に、少女は頬を綻ばせて微笑んだ。
「ご一緒してもいいんですか?」

 お前だから、連れて行くのだ・・・。



 聖殿の裏に、テラスがある。
 そこから空を見上げるのが、クラヴィスは好きだった。
 その場所からの空を見せたい。
 一緒に、眺めて欲しいと。
 聖殿に向かって少女を誘いながら、柄にもないことを思った。
 先刻まで空を真っ赤に染めていた太陽は翳り、闇と静寂が空を包み込む時間がやってくる。

 少女を連れてやってきた、テラスからの眺めも・・・。



 闇夜に星々が輝き、月の光が二人を柔らかく照らし出す。
 黙って、共にその空を見上げた。

 闇に包まれた時間。
 人々が、安らかな眠りにつこうとする、この時。

「この空の下で・・・」
 少女へというより、自分自身に語りかけるようにして、クラヴィスは口を開いた。
「この空の下で、人々が安らかに眠りについているのだと思うと、私の力もまんざらでもないと感じるのだ・・・」
 語り終えたクラヴィスに、少女は微笑みかけた。
「私も、クラヴィス様とご一緒していると、とても安心します。クラヴィス様から、安らぎを分けていただいてるんでしょうね、きっと」
 月明かりよりも柔らかく。
 そして、眩しく。
 少女は笑う。
「そして大勢の人たちも、この夜空の下でホッとしてるんだと思います。私と同じように」
「そうあればと願っているが・・・」
「・・・きっと、そうですよ」
 微笑みを絶やさぬまま、少女は空から飛空都市の街並みに視線を移した。
「街の灯りも、まるで星空のようですね」
「そうだな・・・」

 徐々に落ちていく、街の灯り。
 人口の灯りが消えてなくなる度に、闇が深まっていく。
 今、街は静かに。
 眠っているのだと、クラヴィスは思った。
 そして、その眠りが安らかであるようにと。
 そう、願った。



〜 END 〜




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アンジェリークデュエットのテラスデートの場面です。
女王候補を夜に連れまわしていいのか?
というツッコミはなしの方針で(笑)。
少し消化不良の感があります。
スミマセン・・・。





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