関西旅行 24&44 四のお題
『チャペル(24)』
二人でラブラブ関西旅行に来ている、
という設定でお願いします(笑)。
街の観光から戻り、ハインリヒはフロントで部屋の鍵を受け取ってエレベーターホールに向かった。
ホールで待っていたジェットと合流すると、瑚珀の瞳がキラキラと輝いている。
ジェットがこんな表情をしている時にロクな思い出がないハインリヒは、何も気付かないような風を装って、エレベーターのボタンを押した。
「なあなあ、ハインリヒ」
ジェットが声を弾ませた。
「何だ?」
努めて冷静に答えると。
「ココの中庭に、チャペルを見付けたんだ。な、これから見に行かないか?」
「こんな遅い時間にか?もう、閉まっているだろう??」
答えると、ジェットは満面の笑みを浮かべてハインリヒを見つめた。
「開いてるのは確認済み。ちょっと覗いてみよう。イイだろ?」
嫌だと言っても聞き入れられそうもない。
「仕方ないな・・・」
ハインリヒは肩をすくめて、ジェットの後に続いた。
チャペルは既に、中の電気を全て落とされていたが。
ジェットは構わず正面の扉を開け放った。
「ハインリヒ、ほら!」
薄闇の中、チャペル内を彩るステンドグラスがぼんやりと光を放つ。
ひどく、幻想的な風景だ。
その風景に圧倒されるような気がして、ハインリヒは思わず、クラリとよろめいた。
「大丈夫?」
腰に、ジェットの腕が回された。
「ああ・・・ありがとう」
答えると、ジェットはニヤリと笑い。
そのまま、フワリと抱き上げられた。
「おい!大丈夫だから離せ!!」
「そう?オレには大丈夫に見えないぜ?」
しれっとした声でそう言って、ジェットはハインリヒを抱えたまま、祭壇の方へと歩を進めた。
「いい加減、降ろせよ・・・」
「ダメ。オレの大切な花嫁さんだもんな」
クスリと悪戯に、ジェットは笑う。
「今ここで、結婚式しちゃうか?」
「・・・馬鹿者」
吐息と共に、そう言葉を出すと。
「本気も本気」
急に真面目な顔で見下ろされ、ハインリヒはドギマギしてジェットから視線を反らした。
「オレは、誓えるぜ。今すぐにだって。キミへの、永遠の愛」
琥珀色の綺麗な瞳が、間近に迫って。
ハインリヒを見つめた。
「キミは?誓ってくれる??」
「オレは、オレは・・・」
自分の中にある、確かな答えをジェットに告げるべきか否か戸惑いつつ。
ハインリヒが言葉を発したその時。
不意に、チャペルの中に灯りが入り、ハインリヒはギョッとしてジェットを押しのけた。
「何方かいらっしゃいますか?」
ハインリヒはそのまま、床に降り立ち、慌てて光の方向に走っていく。
「すっ、スミマセンっ!扉が開いていたもので、つい!!!」
開け放たれた扉の前で、ホテルのボーイが懐中電灯を持って、立っていた。
「本当に済みません・・・!」
赤面し、恐縮して平謝りに謝るハインリヒに、ボーイはニッコリと笑みを向けた。
「そんなに気になさらなくても・・・。扉が開いていたので、様子を見に来ただけですから」
遅れてハインリヒの横に並んだジェットも、少し申し訳なさそうに頭をかいた。
「スミマセンでした・・・」
ひとしきりボーイに謝罪した後、ハインリヒは疲れ果てたような気持ちで、エレベーターに乗った。
「ハインリヒ」
「・・・何だ?」
不機嫌に答えたが、ジェットはどこ吹く風だ。
「さっきさ、言いかけたろ?何て??」
「・・・知らん・・・」
ジェットに言うべき、確たる言葉があったのだけれど。
いつかはきっと、言うのだろうけれど。
しばらくは、言ってやらない。
今日は本当に、恥ずかしい目に遭ったのだから。
(ジェットの所為で、だ)
「なあ、ハインリヒ?」
「・・・教えてやらない」
短く答えて、ハインリヒはジェットからプイッと顔を背けたが。
その頬には、穏やかな笑みが浮かんでいた。
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