関西旅行 24&44 四のお題

『異人館(44)』




「あー、あっついなぁ・・・」
「仕方ないだろう?夏なんだから」
「それにしたってさぁ、もうちょっとこう・・・」
 ハインリヒとジェットは、大阪から足を伸ばし、神戸まで来ていた。



「ハインリヒ、明日は何処に行く??」
「オレ達はUSJに行かないからな・・・そうなると、大阪の見所はあらかた行ってしまったような気がするが・・・」
 ガイドブックを見ていたジェットが、ニコニコと笑いながら言う。
「じゃあさ、神戸行こう、神戸!」
「ん?神戸か・・・」
「異人館、見に行こうぜ!」
 ジェットがガイドブックの一部を指差した。
「オレ、この館が見に行きたい」
「どれどれ・・・」
 ガイドブックを覗き込むと、ジェットが指差しているのが『風見鶏の館』だということが分かった。
「これさ、ドイツ人が住んでた館なんだって」
「そうか」
「な、行こうぜvvv」
「・・・分かった、分かった、お前に任せる」



 そんな経緯で、この異人館街まで来たのだが。
 坂の多さと夏の日差しの暑さに、辟易しているのだった。
 ジェットがブーブー言っているのを聞きつつ、歩いていると。
 目的の館が見えてきた。
「ホラ、ジェット。あれがお前の行きたがってた館じゃないのか?」
「・・・そうそう!アレだよv」
 急に元気になって、ジェットはパタパタと小走りになる。
「ハインリヒ!早く、早く!!」
「・・・そんなに急かすなよ・・・」

 入場料を払い、その館に足を踏み入れた。
「うわ・・・。すっげえ!ハインリヒ、ドイツの家って、みんなこうなのか??」
「全部が全部ではないが・・・。そうだな、こんな感じの家もあったな・・・」
 ジェットの言葉に、笑いながら答えを返す。
 館の造りの端々に、ドイツの様式を感じ取り、どことなく懐かしい気分になった。

「ハインリヒ!」
「・・・何だ?」
「この居間、ピアノ付きだぜ!!」
 ジェットが笑う。
「オレも、こんな家に住んで、キミにピアノを弾いて欲しいなぁvvv」
「・・・言ってろ・・・」

 不意に、ジェットを含めた目の前の風景が歪んだ。
 眩暈でもしたかと、ハインリヒは、自身の眉間を押さえた。
 眉間から手を離したハインリヒは、言葉もなくその場に立ち尽くす。
 ジェットの・・・周りの観光客の姿が掻き消えて。
 居間のソファで優雅に足を組んでいる、褐色の肌の男。
「アルベルト」
 紅の瞳が、じっと見つめてくる。
「私のために、ピアノを奏でろ・・・」
 そう言って、男は手に持っていたワイングラスに口唇を付けた。
 ごく自然に身体が動き、ハインリヒはピアノの前に座る。
 真っ白な鍵盤に指を乗せ、音を奏でた。
「ふむ・・・月の光か・・・」
 窓の外には、いつの間にか夜の帳が降りている。
 居間の窓から差し込む月の光が、ハインリヒの銀の髪を柔らかに照らした。
 曲が終わると、男は満足そうに笑ってソファから立ち上がり、ハインリヒに歩み寄ってくる。
「楽しませてもらったぞ。褒美をくれてやろう」
 グラスのワインを呷り、男はハインリヒに口付けた。
「ん・・・」
 口移しにワインを飲まされ、ハインリヒの喉が鳴る。
 飲みきれなかったワインが、口唇の端から流れ落ち、男はそれを、自身の舌で美味そうに舐め上げた。
「・・・もっと、くれてやろうか?」
 男の瞳に射竦められながら。
 それでも、ハインリヒは必死に、首を横に振った。
 ダメだ、これ以上は・・・。



「ハインリヒ!!」
「!?」
 名前を呼ぶ声に、意識が引き戻された。
 目の前のジェットの姿に、ホッと安堵する。

 白昼夢か・・・?

 ハインリヒは、ブルブルと頭を振った。
「ボーっとして、どうした?」
「・・・いや・・・何でもない」
「次は、二階に行こうぜ」
 ジェットの言葉に、ハインリヒは頷いた。

 ジェットに連れられて、二階に上がる。
「うわ・・・。下にも食堂あったのに、わざわざ朝食はココで食べるわけ?なんか、贅沢だよなぁ・・・」
 ボヤくjジェットを見つめ、ハインリヒはクスリと笑った。
「・・・そうだな・・・」

 可愛らしい子供部屋。
 自分も、子供の自分は、確かにこんな部屋で生活していた。
「・・・懐かしいな」
「キミもこんな子供部屋で生活してたのか?」
「まあな・・・」
「ふうん・・・」
 ジェットは愛おしそうにその部屋を眺める。
「キミの子供時代、可愛かったんだろな・・・」
「・・・馬鹿を言うな」
「ま、今でも可愛いけどな♪」
「ジェット・・・」
「何?」
「言ってて、恥ずかしくないのか、お前は?」
「全然。だって、本当のことだもんなv」

 最後に、寝室に回った。
 寝室は土産屋になっていて、ジェットはつまらなそうに口唇を尖らせた。
「え〜!?寝室は土産屋かぁ・・・」
「そんなに口を尖らすな。子供じゃあるまいし・・・」
「ハイハイ、分かりましたよ」
 ギルモア博士にと、ジェットが土産を物色し始めた。
「充分楽しそうじゃないか・・・」
 ハインリヒが苦笑した時。

 目の前の風景が歪んだ。
 まただ。
 再び、周りのざわめきが消え。
 辺りが静寂に満たされる。
 もう、ジェットの姿もない。
「アルベルト」
 天蓋付きの大きなベッドにゆったりと身を沈めながら、男はハインリヒの名を呼んだ。
「お前のために誂えたベッドだ。さあ・・・」
 紅い瞳に吸い寄せられるように、ハインリヒは男の方へと一歩、足を踏み出した。
「アルベルト・・・」
 その低い声に、心とは裏腹に、身体が引きずられてしまう。
 ダメだ。
 これ以上進んだら、戻れなくなる。
 ダメだ・・・。
「来い、アルベルト」
 当然といった風に、男はハインリヒに手を差し伸べた。
 そして、冷たい手の平が、ハインリヒの腕を掴んだ。
「アルベルト・・・。私の・・・」
 冷たい口唇が重なる。
 柔らかなベッドに身体を押し付けられ、男の口唇が首筋に、胸元に・・・。
「・・・やめっ・・・!」
「私の腕の中で、快楽に溺れるがいい」
 男が、笑う。
 その瞳から・・・。
 ・・・逃れられない・・・。
 ハインリヒは思わず、キュッと瞳を閉じた。

 このまま、戻れない・・・?

 「・・・アルベルト」
 男に所有印を刻み込まれながら。
 ハインリヒは心の中でジェットの名を呼んだ。

 ジェット、ジェット・・・!!

 けれども、その呼びかけは虚しく消えて。
 ただ、快楽の波が・・・。



〜 END 〜

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スミマセン、スミマセン(×100)
自分、本命は24です、24なんですぅ〜!!
と、言い訳してみる。
異人館のお題を頂戴した時から、
こんなムードの話が書きたかったんですぅ〜。
以上!!






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