関西旅行 24&44 四のお題

『お風呂(44)』

*スウィートハニーの表に置くには少し大人向けですので、ご注意ください*




 バスタブに湯を張り、ハインリヒはゆっくりとその中に浸かった。
 あまり広くも無いが、狭すぎるわけでもないホテルの風呂は、シャワーの蛇口などが上品な作りになっている。
 ヨーロッパのアンティーク調の雰囲気で、ハインリヒはその雰囲気にホッとしていた。
「ふう。良い湯だな・・・」
 などと、少しばかりオヤジくさい台詞を吐きながら、ハインリヒは気持ち良さそうに目を閉じた。

 穏やかなバスタイムを満喫しているその最中。
 ふと、頬を冷たい何かが掠めた。
(何処かから水滴でも落ちたか・・・?)
 そんな事を考えながら目を開き、シャワーカーテンの方に視線を向けた。

「!?」
「やあ、アルベルト・・・。元気にしていたか?」
 何時の間に現れたのだろうか。
 自分と良く似た顔をした男が、ハインリヒに向かって笑いかけている。
 口唇の端だけを曲げて笑う、酷薄な笑みで。
「な・・・っ。一体、何処から!?」
「私に不可能などないという事を、お前は覚えておく必要があるな、アルベルト?」
 ニヤニヤと楽しそうに笑いながら、男の褐色の指先が、ハインリヒの頬に触れた。
 冷たい感触。
 先ほど、頬を掠めたものと同様の・・・。
「触るな・・・!」
 邪険に男の手を振り払おうとした手首を強く掴まれ。
 その痛みに、ハインリヒの表情が微かに歪んだ。
「イイ顔だな、アルベルト・・・」
 手首を掴まれたまま、男の顔が、目の前に迫ってくる。
 顔を背けようとしたが許されず、冷たい口唇がハインリヒのそれに重なった。
「・・・・・・・・・っ!!」
 口内を侵され、温かい湯の中にいるというのに、背筋に悪寒が走った。
 そして、もっと別の感覚まで呼び覚まされそうになる。
「やめっ・・・!!」
 執拗な口付けから解放され、ハインリヒはキッと男を睨み付けた。
「ふざけるな・・・!!」
「ふざける?私は大真面目だが・・・?」
 胸が悪くなるような笑いをその頬に浮かべ、男はハインリヒを見下ろす。
「それに、お前も・・・」
 ハインリヒは、カッと赤くなった。
 自身が微かに反応を示していることを、分かっていたからだ。
「出て行け!!!」
 声を荒げると、男は鼻先で笑いながら、ハインリヒに告げた。
「アルベルト。あまり騒ぐと、リンクに聞こえるが・・・それでも構わないか?私は、全く構わんがな・・・」
 男の言葉に、身体が震える。

 今、この場を・・・ジェットに見られたら・・・?

「大人しく、私の相手をする気になったか?ん??」
 男がシャワーのコックを捻り、流れ出した湯が、まるで雨のようにハインリヒの髪を濡らしていく。
「シャワーの水音で、お前の喘ぎ声も少しは目立たなくなるか?ククク・・・」
 喉を鳴らすようにして、男が笑う。
 赤い瞳に射すくめられ。
 ハインリヒは、ガタガタと震えた。
「何を震えている?すぐに気持ちよくしてやるから、安心するがいい」

 褐色の腕が、ハインリヒに向かって伸びる。
「物分りがイイな、アルベルト。黙っていれば、リンクにも気付かれずに済むというものだ・・・」
 身動きも取れないまま、泣き出しそうに表情を歪めて。
 ハインリヒは男にただ・・・その身を委ねることしか出来ないのだった。



〜 END 〜




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