腰砕け
「あああ〜っ!?」
ジェットの叫び声に、ハインリヒは驚きながら振り返った。
「何だ、ジェット?一体、どうした??」
嬉しそうに、ジェットはあるアトラクションを指差した。
「いつも混んでるって聞いてるのに、めちゃくちゃ人が少ないじゃん!なあなあ、ハインリヒ。アレ乗ろ、な??」
ジェットの長い指の先には、『スペースマ○ンテン』なるアトラクションが存在していた。
「絶叫系か??」
「ご名答vvv」
「・・・オレはあんまり得意じゃないんだが・・・」
「大丈夫、大〜丈夫。いっつもオレと空中戦してるじゃねえ?あんなイメージだからさv」
問答無用とばかりに、腕を掴まれ、アトラクション内に連れ込まれた。
宇宙基地を模したようなイメージの通路を、ほとんどフリーパス状態で歩く。
「なんかさ、こうしてアトラクションの中を歩いてると、気持ちイイよな〜vだって、本当なら待ちが当たり前だろ?」
「・・・そうだな・・・」
言葉少ななハインリヒの様子に、ジェットがクスクスと笑う。
「大丈夫だって、そんなに怖がらなくても・・・」
「絶叫系の、あの浮遊感が・・・何となく、苦手なんだ・・・」
「ハイハイ。でも、付き合って、な?」
ハインリヒの手を引いたまま、ジェットはすたすたと歩く。
そして。
あっという間に、コースターの前まで辿り着いた。
マシンに乗り込むと、セーフティーバーが降りてくる。
ハインリヒはしっかりと、手前のバーを握りしめた。
やっぱりジェットがクスクスと隣で笑っていて、癪に障る。
「・・・後で覚えておけよ・・・」
「ちゃんと、キミの好きなアトラクションにも付き合うからさ」
マシンが、動き出す。
暗闇の中、カタカタと音を立てながら、マシンは坂(?)を昇っていった。
冷たい霧のようなものが、顔にかかり、いよいよかと思ってハインリヒは更に強くバーを握りしめた。
隣のジェットは、余裕の仕草だ。
心の準備をしようと大きく深呼吸しようとした途端、マシンがものすごいスピードで動き出した。
『スペー○マウンテン』とはよく言ったもので、宇宙空間を流れていくような、そんな雰囲気だ。
しかし、周りで光る星々は、目まぐるしくハインリヒの瞳の中に飛び込んでは消えてゆく。
「おお!凄え!!」
ジェットの喜びの声を遠くの世界のもののように聞きながら。
フワリ、と身体が浮き上がるような浮遊感を何度か味わい、ハインリヒは声も上げることができず固まったまま、ただ、しっかりとバーを握りしめるだけだった。
マシンが、明るい世界に戻ってきた時、ハインリヒは心の底から安堵し、大きく息を吐いた。
ジェットはヒラリと身軽にマシンを降りる。
立ち上がろうとして、ハインリヒはほんの少し、よろけた。
「どうした、ハインリヒ?」
「・・・手を貸せ、ジェット」
「え・・・?」
「腰が、砕けた・・・」
クスリと笑って、ジェットが手を差し伸べる。
「どうぞ、オレのお姫様」
「・・・一度、死んで来い・・・」
その笑顔がやっぱり癪に障って、ハインリヒはワザと強くジェットの手を掴んだが。
全くの逆効果で、その行動はジェットを喜ばせただけだった。
「そんなにオレを頼りにしてくれてるの?」
「・・・もう絶対に、絶叫系には乗らんからな・・・!!」
「約束できませ〜ん」
ジェットに手を引かれ、ハインリヒはフラフラしながらアトラクションの外に出るのだった。
外の爽やかな空気は。
ハインリヒにとって、ひどく、美味しく感じられた。
〜 END 〜
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最後の腰が砕けた部分が実話です(笑)。
ちょっとフラフラしてしまい、ハヤト様の御手をお借りしてしまいました・・・。
2回目は全然平気だったんですけどね。
ハインさんが絶叫系苦手というのは苦しいですが、
24で書くにはこうするしか・・・!!
ジェットが腰抜けたら、ちょっとカッコ悪すぎですから!!
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