ピンチの時には呼んでくれ
田島悠一郎、15歳。
花も恥らう高校一年生。
西浦高校野球部の4番サード。
野球センス抜群の将来有望な男子である。
好きなモノは、野球と花井梓!!
「花井〜vvvおはよっ。今日もカワイイな!!」
ニッコリ満面の笑みで声をかけると、花井は思いっきり迷惑そうな顔をする。
「お前、少しは黙れないのかよ?」
「花井がどうしても、ってお願いするなら、黙ってあげてもイイけど??」
「・・・もういい・・・」
『田島悠一郎は、花井梓がゲンミツに大好きです!!』
本当ならば、グラウンドの真ん中でそう宣言し、花井を狙う周りの不届き者(田島にはほとんど全ての人間が不届き者に見えるという)を牽制したいところである。
しかしながら、それを叫んでしまうと、花井からかなりの期間口を聞いて貰えなくなることは確実なような気がして、何となく実行に移せない田島であった。
そんな田島であるが、野球をしているときは実に頼もしい4番バッターである。
練習試合をしていて、1点リードされている9回表。
2アウトでランナーが1・2塁。
「田島!」
鋭い声で名前を呼ばれ、田島は二カッと笑った。
「任せろ・・・!!」
一試合やって、打てない球はない。
そう、田島は自分に言い聞かせる。
緊張する場面でこそ、ポジティブシンキングである。
バットをグルンと振った後、真剣な表情でピッチャーと対峙する。
いつもの元気のいい笑顔も、この時ばかりは影を潜めている。
ピッチャーが投げた球がキャッチャーミットに吸い込まれる前に、田島がバットを振り。
小気味の良い音を立て、白球が空に浮かんだ。
「っしゃ!!」
ライト頭上を越え、コロコロと白球が転がる。
相手が処理に手間取っている間に、田島は2塁を落とし。
ランナー2人はホームインだ。
「うわ〜!逆転!!」
「田島、ナイバッチー!!」
「さすが、頼りになるぅ〜!!」
西浦のベンチが沸く。
「任せろって言ったろ?」
ベンチと、バッターボックスの花井に向かって、田島はVサイン。
自慢じゃないが、得点圏打率は高いんじゃないかと思う。
ピンチの時ほど闘志が燃える。
野球以外でも、彼の頼もしさが遺憾なく発揮される場合がある。
昼休みに花井のクラスに襲撃をかけた田島は眉をひそめて阿部に視線をやった。
「花井は?」
「なんか、別のクラスの女子に連れてかれたぜ」
水谷が答える。
田島はピピピと花井アンテナを作動させた。
フンフンと鼻をうごめかせながら、田島は花井を探し。
「見つけた!」
案の定、女子から熱烈な愛の告白を受けている花井は、可哀想なぐらいにしどろもどろだ。
ツカツカと、田島は二人に歩み寄った。
「あー、ダメダメ。花井にはもう、好きな子がいるんだよ。な?」
「え・・・?」
「相手はオレ!!な〜んて、冗談」
アハハと屈託なく田島は笑う。
その横で、花井が冷や汗をかいているが、知ったこっちゃない。
(花井はオレのなんだから、悪い虫が付かないようにしなくちゃね!!)
田島の話(好きな子がいる、の下り)を信じたのか、女子は泣きそうな顔で踵を返し、去っていった。
「・・・田島っ!お前、あんまり馬鹿なコト言うなよ!!」
「えー?イイじゃん。花井は絶対、オレを好きになるよ、ゲンミツに!」
「なるかぁぁ!!」
田島悠一郎。
花井梓の危機は決して見逃さない男。
「花井〜!またピンチになったら、いつでも呼んでくれよな!!」
「ああ、ありがと・・・って、違う!いつもお前が勝手に現れるだけじゃねえか!!」
二人の会話は、西浦高校の夫婦漫才と呼ばれている・・・。
〜 END 〜
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少しお題から逸れてしまったような・・・。
すごくギャグっぽい話が書きたくなって、コレです。
うわー。コレが田島くんのバースデー月に書いた話なのか・・・。
と、自分でも少々引きつつ・・・。
でも書きたかったんです、スミマセン。
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