もう少し近付いてもいい?
西浦高校野球部主将の花井梓は、とてもとても面倒見がイイ。
東に教科書を忘れて困っている部員がいれば貸してやり、西に悩める部員がいれば、よしよしと慰めて相談に乗ってやる。
部員に対してだけではない。
クラスでもその面倒見の良さを発揮しているため、皆から慕われている。
イコール、人気がある、というコトで。
花井の周りには、いつでも笑顔が絶えない。
「・・・なんか、面白くない・・・」
借りていた教科書を返しに来た田島がボソリと呟くと。
「え?何が、何が??」
その呟きを聞きつけた水谷が身を乗り出してきた。
「水谷」
「何、田島?」
「花井ってさ。誰にでも優しすぎると思わない?」
柔らかそうな茶色がかった髪を揺らし、水谷は首を傾げた。
「でもさ、そうじゃなかったら、それはもう、花井じゃないでしょ?」
水谷は言う。
「面倒見が悪くて優しくない花井なんて、花井の顔した別人じゃないの?」
と。
確かにそれは、そうだと思う。
でも・・・。
面白くない気持ちが、田島の心で燻り続けた。
放課後。
「いってー。やっちまったよ・・・」
練習中、ひょんな事で指先に切り傷を作ってしまったら、花井がバタバタと駆けて来た。
「田島、こっち来い!」
「何だよ、花井!こんなの舐めときゃ治るって!」
「ダメだ!そのままにしておいたら、バイキンが入る」
有無を言わせぬ口調で、花井は田島の腕を引っ張った
「篠岡!絆創膏と消毒薬!!」
「はーい」
マネージャーはパタパタと駆けて来て、花井に救急箱を手渡した。
「私がやろうか?」
「大丈夫」
短く答えて、花井は田島を水場に連れて行った。
花井が蛇口を捻ると、勢い良く水が出てきて。その水で、指を洗われた。
「痛っ!花井、痛い、しみる〜!!」
「少しは大人しくしてろよ・・・」
水で汚れを落とした後、キレイなガーゼで拭いてもらい、消毒液。
「だから、しみるって!!」
「ガキじゃあるまいし、我慢しろって」
そして花井は、ぺたりと大判の絆創膏を田島の指に巻いた。
「はい、終わり。大事な指なんだから、気を付けろよ、田島?」
「・・・・・・・・・」
答えないでいると、花井は少し困ったような表情を見せた。
「田島・・・?」
「怪我したのがオレじゃなくても、きっと花井は、こうやって手当てしてやるんだよな・・・」
「当たり前だろ。何言ってんだ?」
オレは、イヤだ。
みんなと一緒、じゃイヤだ。
もう少し、お前に近付かせてくれよ・・・。
「花井!」
腕を伸ばし、ぎゅーとしがみ付いた。
「たたたた、田島〜!?」
動揺する花井に、
「ありがとな!っていうお礼の気持ちをたーっぷりと込めてみたぜ!!」
「いらねえよ!」
怒鳴る花井に向かって、小さな小さな声で囁いた。
「もう少し・・・近付いてもいい?」
「・・・何か言ったか、田島?」
「何でもないっ!さあ、練習、練習!!」
わざと大きな声を上げ、田島はグラウンドに向かって走った。
「待てよ、田島!」
花井が追いかけてくる。
赤い夕日に、田島は力強く誓った。
いつか絶対、花井の特別になってみせるぞ・・・!!
「オレはやるぜ〜!!!」
夕焼け空に、田島の声はスーッと吸い込まれていった。
〜 END 〜
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
まだまだ恋愛未満のタジ→ハナ。
田島は花井くんが好きなので、みんなに優しいのが気に喰わなかったり。
ブラウザを閉じてお戻りください。