君と出会えた何万分の一の偶然




 目の前で、田島が幸せそうにハンバーガーをパクついている。
 花井の手元にある烏龍茶のカップの周りには、無数の水滴が付いている。
 じめじめと、湿度の高い季節になってきた証拠だ。
 その水滴を、紙ナフキンで無意識に拭き取りながら。
 花井は、田島を何か不思議な物のように眺めた。
「・・・はひ(何)?」
 ハンバーガーを頬張ったまま、田島が尋ねてくる。
「や・・・何でも・・・」
 花井は答えに詰まり、側にあったストローの袋を指先で弄った。

 田島は、中学時代は強いシニアの4番を打っていた男だ。
 高校に入る時も、俗に強豪と呼ばれる学校から、引く手数多だったハズで。

「そんなお前と、こうして一緒にファーストフードなんか食べてるんだから、出会いって不思議だよなぁ・・・」
 感慨深く花井が呟くと。
 キョトンとした顔で、田島が花井に視線を向けた。
「どーゆーコト??」
「お前、荒シーの4番だったんだろ?それがウチの学校に入って、オレとチームメイトになってる、ってコトに、今更ながらに驚いている所なんだよ」

 実際に、田島は凄いバッターだ。
 側で見ていて、ハッキリと分かるほどに。
 レベルが、全く違う。
 そのことに時折落ち込みそうにもなるけれど。
 田島は田島、オレはオレ。
 自分に出来る事をコツコツとやって自身を伸ばしていこうと、花井は今では素直にそう思っていた。
 田島までは行かないかもしれないが、自分だって、やれば出来るはずだ。

「は〜ない。何考えてんだよ?」
「だから言ったろ?お前みたいなスゴイ奴と一緒にいるのが、すごい偶然だってコトだよ」
 田島がキラキラと瞳を輝かせた。
「ひょっとして、オレと花井って、ミラクルロマンスってヤツ?」
「・・・バカ・・・。つか、ミラクルロマンスって、何だよ?」
「何となく、言ってみたv」
 ニパーっと、田島が笑う。
「でもオレは、偶然なんて思ってないよ!そして、このチャンスを、ゲンミツにモノにしてみせる!!!」
「はあ?」
 話しの流れがイマイチ掴めず、花井はマヌケな声で問い返した。
「オレ達の出会いは偶然なんかじゃなくて、必然なんだ、ってコトv」
「・・・田島・・・。何か、変な漫画でも読んだのか?」
 呆れながらツッコミを入れると、田島がゴホリと咳払いをした。
「まあ、それは置いといて!オレは花井がウンと言うまで、口説いて口説いて口説きまくるよ!!ねえ、オレのコト、好き??」
 ・・・話のスピードに、付いていけない・・・。
 そう思いながら。
「あー。好きだぞ、好き」
 そう答え、氷が殆ど溶けかけた烏龍茶を、ストローでチューと吸い上げた。
「真面目に答えろよ。オレのコト・・・好き?」
 真剣に、花井の目を覗き込んでくる。

 強い光を宿した、その瞳に。
 ・・・弱いんだよな・・・。

 ストローから口を離して。
「だから、好きだって・・・!」
 少し怒ったようにして答えると、田島の表情がパッと明るくなった。
「うん!オレも花井が大好き〜!!」
「ばっ・・・!そんな大声でっ!!」
「好きなヤツに好きって言って、何が悪いんだよ?」
「分かった・・・分かったから!!!!」
 花井は、トレイを持ち、ガタリと席を立った。
「どしたの?」
「帰るぞ・・・」
「え〜!?オレもっと、花井と話してた〜い!!」
「また今度、ゆっくり・・・な?」
「約束だぞ?」
 田島の分のトレイも回収し、トレイを持っていない方の手で、田島の腕を引いた。
「行くぞ」
「へーい」


 店を出て。
 田島は愛車に跨り、颯爽と去っていく。
「また明日な!」
「おう!また明日・・・」
 少し小柄なその後姿を見送りながら思う。

 田島と出会えた、何万分の一の偶然。
 その偶然を、感謝しようと。

 花井はボソリと呟いた。
「花井梓は、田島悠一郎が大好きです」

 うわぁぁ〜!!

 自分で言ったくせに、言った後、耳まで真っ赤になって。
 花井は俯きながら、薄暗い道を駅まで歩いた。



〜 END 〜




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今までより、少しラブっぽくなりましたでしょうか!?
タジハナ、可愛いよ〜!可愛いよ〜!!
と、一人で悶える管理人でございます。
誰か一緒に、タジハナ萌え話を・・・!!





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