新年に寄せて
「はーなーいっ!!」
新年最初の練習の後。
元気いっぱいに声をかけてくる田島に視線を走らせて。
「何だよ?」
いささか冷たく、花井は答えた。
「もう、初詣行った??」
花井の態度にめげることなく、キラキラと瞳を輝かせながら、田島が尋ねてくる。
「ん〜。まだ」
「じゃあさ、これからオレと一緒に行こう!ガッコの近くに、神社があるんだよね〜」
「別にいいけど・・・・」
そう言うと、田島の表情がパッと明るくなった。
「決まり〜!それでは、レッツゴー!!」
西浦高校最寄の駅と学校の間に、その神社はあった。
少し脇道に反れるていたため今まで気づかなかったそこは、平日の夜なので、人もいない。
しん・・・と静まり返っているその場所に、花井は気持ちを引き締められるような気がした。
自転車から降りた田島が、花井の腕を引く。
「こっちだよ」
冬の寒さに丸裸にされた木々の下を抜けて、境内まで連れて行かれた。
お賽銭を出そうと財布を探っていると、田島がニッコリと笑いながら花井に手を差し出した。
「・・・何だよ?」
「お賽銭v財布に小銭が入ってない!」
「あのなぁ・・・」
呆れながらも、その手の平に五円玉を乗せてやった。
花井自身も五円玉を手の平に握り締めて、ガラガラと鈴を鳴らした。
五円玉は花井の手を離れ、ふわりと宙に浮かんでから、賽銭箱に吸い込まれるようにして消えていった。
田島の手にあったお賽銭も然りである。
パンパンと柏手を打ち、新年の願いを・・・。
(目指せ、甲子園!!)
心の中で強く、呟いた。
チラリと隣の田島に眼をやると、こちらもかなり真剣に、願い事をしている。
「うしっ!」
小さな気合の声と共に、田島が花井を振り向いた。
「願い事終わり!おみくじ引こうぜ!!」
そして、再び差し出される手。
「100円ちょーだい」
「・・・田島・・・」
「ん??何?」
「オレはお前の母親か・・・?」
「違うよ!花井はオレのステディだよ!!」
新年早々、何か会話が噛み合わないと虚しく思いつつ、花井は百円玉を2枚、財布から出した(結局、田島に甘いのである)。
コインを投入して、田島が嬉しそうにくじを引いた。
花井も、ドキドキしながらそれに倣った。
「大吉〜!!!よし、今年は甲子園だな!!」
シンとした境内に、元気な田島の声。
自分のくじを開いた花井は、普通に吉だったのでホッとした。
「花井は?花井は??」
「オレは吉だよ。」
ウシシと田島が笑った。
「オレの勝ち〜v」
「・・・勝ち負けの問題じゃないと思うぞ・・・」
そう諭そうとしたが、田島の興味は既に別の話題に移っていたらしく。
「花井、花井!何お願いした??」
「田島・・・。人に言っちまうと叶わない、って聞いたこと無いか?」
「え〜?いいじゃん!教えろよ!!」
頬を膨らませながら、そういった後。
「オレはね・・・」
田島がスーッと息を吸い込んで。
「今年も花井とた〜くさん一緒にいられますように!!」
冬の高い空に、田島の声が吸い込まれていく。
「なななななな、何言ってんだお前は!?野球部員たるもの、目指せ甲子園!ぐらい願えよ!!」
「花井の願い事は、それだったんだ?」
ニパッと笑う田島に、してやられた気分だ。
「オレの願いは甲子園込みだよ。だって花井と一緒に甲子園行って、大会の間中、朝も昼も夜もず〜っと花井と一緒にいる予定なんだからさ!」
「サワヤカな顔で、何か恐ろしいこと言ってないか、お前・・・?」
「別に〜。普通じゃん?」
そうなのかと自問自答しつつ。
「まあ取りあえず、今年もヨロシクな」
なんて、改めて田島に言うと。
「頼りにしてイイぜ、花井?」
いつもと少し違う、大人っぽい笑顔でそう返ってきてドキリとした。
微かに赤くなった頬を見られたくなくて、首に巻いていたマフラーにさり気なく顔を埋めながら、
「頼んだぜ、4番!!」
胸のドキドキを隠すようにして、ポンと田島の肩を叩いた。
〜 END 〜
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明けましておめでとうございます(2006年)。
他ジャンルでもお正月話はほとんど書いたことが無いのですが、
今回、果敢にチャレンジしてみました。
西浦のモデルとなっている(と思われる)学校の近くに、
神社があるので、そこで初詣するタジハナ、というコトでひとつ。
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