二限目の授業中にチラチラと降り出した雪は、この冬最初の雪だった。
 窓の外、ひらひらひらひらと雪が落ちていく様を、田島はボンヤリと見つめていた。
 雪は地面へと舞い落ちて、グラウンドを徐々に、白く彩っていく・・・。


「すっかり、積もっちまったなぁ・・・」
 カバンを持って歩きながら、田島はボヤいた。
 当然のことながら練習は中止となり、思っても見なかった休日が転がり込んで来たわけだ。
 昇降口へと続く廊下を歩きながら、グラウンドへと視線を移す。
 学校帰りの時間帯。
 幾つもの足跡が、雪の上に残っている。
 踏みしめられた雪は、少し濁ったような色をして、それでも静かにその場に佇んでいた。
「田島!」
 不意に、背後から名前を呼ばれる。
 パアァァ、と、振り返った田島は、表情を輝かせた。
「花井〜vvv」
 練習中止の今日、田島はもちろん放課後の7組へと花井をお迎えに上がったのだが、教室を出た後だと言われ、泣く泣く一人で昇降口に向かっているところだったので。
(会えるなんて、ラッキーvやっぱり二人は運命の赤い糸で結ばれてんだな!!)
 ニヤニヤと笑いつつ、田島がそんなコトを考えていると。
 足早に田島に歩み寄りながら、花井が残念そうな顔で、グラウンドを見た。
「これだけ積もると、やっぱり練習は出来ないよなぁ」
「そだな」
 靴を履き替えて外に出ると、二人が吐いた息が、白く凍った。

 校門を通り過ぎ、何となく二人は、通学路から外れた道を歩いた。
「おい、田島。おまえ、まさか駅まで付いてくる気じゃないだろうな?」
 訝しげに尋ねてくる花井に、田島はニッコリと笑いかけた。
「オレの大切な花井だもんvちゃ〜んと駅まで送ってくよ、ゲンミツに!!」
「いらねって。風邪ひくぞ。とっとと帰れ」
 冷たく言いながらも、花井が田島に傘を差し出してくれる。
「アリガト」
 そう言って笑うと、花井がフイとそっぽを向いた。
 白く、雪は降り続ける。
 ふわりふわりと舞い落ちる雪の中で、花井の姿はどこか儚げに見えた。
「花井・・・!」
「何だよ?」
「勝手に、オレの前から消えちゃったりしないでくれよ?」
「はあ?何バカなコト言ってんだよ」
 呆れたような声。
 けれども、田島は言い募った。
「だって・・・!花井があんまりにもキレイで、雪の中に消えていっちゃいそうなのがいけないんだ!!」
 色素が少し薄いように感じられる花井の瞳が、丸くなり。
 ヒラリと、雪の欠片がひとひら、その長い睫毛の上に止まった。
 雪の冷たさに驚いたのか、花井がキュッと目を閉じた。
「花井。取ってやるから、そのまま目ぇ閉じてて」
 立ち止まって、自転車を支えながら。
 背伸びをしてペロリと、目蓋の上の溶けかけた雪を舐め取った。
「ぎゃー!田島!?」
 目を開いた花井に、ニコリと笑いかけながら。
「ご馳走様でしたvと言いつつ、もう一ついただき〜vvv」
 チュウと口付けると、田島の目の前で花井が固まった。
「好きだよ、花井」
 聞こえるか聞こえないかの声で囁きかけ、田島は自転車を引きながら前へと進んだ。
「た、田島〜〜〜!!」
「イイじゃん、キスの一つや二つ、減るモンじゃないし」
「減るっ!減るわ〜っ!!」
 真っ赤な顔をして怒る花井に、田島は屈託のない笑顔を見せた。

 雪の中、二人きり。
 何だか恋人同士のようだと思い至り(キスまでいただいちゃったし)。
 田島はニヒヒと、空を見上げながら笑った。
「笑ってんじゃねえぞ、田島!!」
 ひらひらと、雪が降る。
 それは田島の髪を薄っすらと白く彩って。
 怒りながら駆けてきた花井は、その様を見て、形の良い眉を顰め。
 そっと、田島に傘を差し出した。
「サンキュッ」
「・・・さっきのコト、許したわけじゃないからな!ただ、大事な4番に風邪をひかれたりしたら困るから・・・」
「うん。それでもイイよv花井が少しでもオレを気にかけてくれることが嬉しいから」
 頬を赤くしたまま、花井は俯いて。
 そのまま、二人は無言で歩いた。
 雪は・・・止む気配も無く、ただひらひらと辺りに舞い落ちていった。



〜 END 〜

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本日、管理人が住まう地域は一日雪でした。
それで、雪の中のタジハナを書こうと思い至りまして。
なかなか、ラブラブにならない二人・・・。
もどかしい〜(涙)。
別ジャンルの別CPは、これでもか、というぐらいいちゃいちゃしているのになぁ。
もっと可愛いタジハナ書けるように頑張ります!!







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