はぴはぴバースデー





 チュンチュンとスズメが鳴く声が聞こえる。
「う〜ん・・・」
 ベッドからムクリと起き上がり、伸びをする。
 階下から微かに漂う味噌汁の匂いに鼻をうごめかせながら、アンダーシャツに腕を通した。
 ピンポン。
 こんな朝早くから、玄関のベルが鳴る。
 パタパタと、母親のスリッパの音。
「おはようございます!!」
「あら〜、田島くん!梓はまだ部屋よ〜」
 などという声が聞こえて。
 トントンと、階段を上がる音。
 ドアが、イキナリ開いた。
「花井、おはよっ!」
 ドアの向こうから現れた田島は、ニコニコと笑いながら近づいてきて。
「誕生日、おめでとう」
 何の前触れもなく、口唇に掠めるようなキスをされ、
「オレが一番だよな?」
 囁くような声に、思わず赤面した。
「なななななっ!」
「ハイハイ、照れないでいいからさ。朝飯だって、おばさんが呼んでるぜ。早く着替えろよ」

 花井家の朝の食卓。
 何故か、ごくごく自然に、田島の姿がある。
「おばさんの作った飯は、ゲンミツに美味いです!!」
 ものすごい勢いで食事をパクつく田島を、花井母は嬉しそうに眺めている。
「それは嬉しいわ〜。沢山食べてね」
「はいっ!!」
 花井はモクモクと、食事を進めていた。
「今日って、花井の誕生日だけど、家族で何かするんすか?」
 田島の一言に、花井母の表情が曇った。
「それがねぇ・・・。この子が嫌がるのよ・・・」
「ええ〜?」
 田島の視線が花井に向いた。
「どーして嫌がんだよ?おばさんに失礼だろ!!」
「恥ずかしいんだよ!!」
 言い返したが、田島はまるで聞こえなかったが如く、花井母にニッコリと笑いかけた。
「今日!やりましょうよ、おばさん!練習終わったら、ゲンミツに!!」
「まあ、いいわね〜vvv田島くんも是非、参加してちょうだいね」
「モチロンすよ!!」
「うわうわ、何だか嬉しいわ〜。ハリキって準備しちゃおう」
 ウキウキと、花井母は浮かれている。
「準備すんじゃねえよ!」
 そう言ったが、花井の言葉は再び聞こえなかった事にされた。

 食事を終えた二人は、チャリチャリと学校に向かう。
「花井、何ブーたれてんだよ?」
「お前のせいだろうが、お前のっ!!」
 練習を終え、家に戻れば母親が満面の笑みを浮かべて自分(プラス田島)を迎えるだろう。
 なんてったって、母親はお祭り騒ぎが大好きなのだから。
「はああああぁぁ」
 花井が吐いたため息は、春の爽やかな空気の中に溶けて消えた。



「花井〜。おめでと」
「誕生日おめでとう!」
「は、花井・・くん、おめでとう」
「おめでとう!」
 チームメイトからの祝福の嵐が花井を襲う。
「おう。ありがとな〜」
 その隣で、田島はニコニコ、ニコニコと、まるで自分が祝われているかのような満面の笑み。
「ていうか、何で田島が嬉しそうに笑ってんだよ・・・」
 水谷のツッコミにも負けず、ニコニコ顔である。
「だって、花井の誕生日なんだぞ!?オレにとってもゲンミツに大切な日だよ」
「はあ、そうですか・・・」
 阿部の呆れ声。
 花井は、頭を抱えたくなった。
(誕生日のオレが、どうしてこんなに肩身が狭い思いを・・・!?)

 クラスメイトからも盛大に祝われ、幸せなのだけれど祝われ疲れ気味な夕刻を迎えた。

 練習が終わると・・・次は、家族からのお祝いが待ち構えている。
 気持ちは嬉しいのだが、あまり事を大袈裟にして欲しくはない花井であった。



 日も沈んでしまった帰り道、朝と同じように(速度は落ちているが)チャリチャリと、二人は自転車をこいだ。
 花井家に辿り着くと、花井の母親と双子の妹が賑やかに迎えてくれる。
「田島くん、いらっしゃーいv」
「わーい、田島のお兄ちゃんだ〜!」
 何度か花井の家に遊びに来て、すっかり妹達と仲良くなっている田島は、ぽふぽふと彼女達の頭を撫でてやった。

 皆で談笑しながら(花井は恥ずかしげにぶっきらぼうではあったが)花井の母親の心づくしの料理に舌鼓を打った後、大きなケーキが食卓の上に現れた。
 ロウソクが17本立っている。
 花井母が、嬉しそうに笑いながら、一本一本に火を灯した。
「さっ、梓!ロウソクの日を吹き消して。お願い事をちゃんとするのよ」
「だから、恥ずかしいって!!」
 花井が抵抗する。
 田島がのんびりと先行きを見守っていると、双子の妹がぷーと膨れた。
「あすかとはるかもお手伝いしたんだよ〜」
「お兄ちゃん、あすかとはるかのお母さんのケーキが食べられないって言うの〜??」
「うっ、それは・・・!」
 言葉に詰まる花井を見て、
「花井の負けな」
 クスクスと田島は笑った。
「じゃあ、みんなで梓お兄ちゃんのためにハピバースデーを歌おうな〜!」
「はーい!」
 少し調子が外れた田島の声と、元気な双子の声、明るく優しい花井母の声が混じって、ハッピーバースデー歌う。
 歌が終わった時、頬を赤くした花井が、照れを隠した憮然とした顔で、勢い良くロウソクの炎を吹き消した。
「お兄ちゃん、おめでとー」
「おめでとー!」
 小ぶりの手から、花井に差し出された袋。
「はい!」
「これ、はるかとあすかからプレゼントだよ」
「ありがとう・・・」
 小さな声で、花井が答えた。
「おめでとう、梓。これはお母さんからよ」
「・・・ありがとう」
 なんだかんだ言いながら、やっぱり、家族からのお祝いは嬉しいものらしい。
 頬を赤くしながら幸せそうな花井に、田島は小さな箱を差し出した。
「はい。これはオレから。今ここで、開けて欲しいんだけどな〜??」
 花井の指先が、器用に包装紙を剥がしていく。
 箱の中から現れたのは・・・シルバーの指輪。
「はあ!?」
 思いっきり怪訝そうな顔の花井。
「わー!指輪だ〜!!」
「田島のお兄ちゃん、すご〜い!」
 双子はキャッキャと喜んだ。
「あらあら〜」
 花井母も、何となく喜んでいる。
「おばさん!オレ、将来はゲンミツに花井を嫁にもらうんで、ヨロシクお願いします!!」
「何言ってんだ、お前はっ!?」
 花井の言葉は、ものの見事に無視された。
「将来が田島くんのお嫁さんなら梓も安泰ね。おばさんも安心するわ〜。こちらこそよろしくね、田島くん」
「絶対に幸せにするんで、任せてください!!」
「田島くんがお兄ちゃんになるんだ!」
「うわーいv」
 赤くしていた頬を更に赤くして、花井が叫ぶ。
「オレの意思はどうなるんだ!?」
「幸せにするよ、花井!!」
「あらあら、照れちゃって梓ったら〜」
「お兄ちゃん、照れてる〜」
「照れてる〜」
 真っ赤な顔の花井を中心にして、笑顔が弾けた。
 最も、当の花井はフルフルと震えていたが・・・。

 結局、その日は花井家に泊まることになった。
「明日一緒に、練習に出かければいいじゃない。ユニフォームは、洗濯しておいて上げるから」
 花井母の言葉に思いっきり甘えてしまった。
 ・・・だって、少しでも長い時間、花井と一緒にいたいし。
 互いに、風呂上りのサッパリとした服装になる。
「田島!!」
 花井がキッと、睨み付けてきた。
「お前なあ、あーゆー馬鹿なこと言うのやめろよ!!」
「バカなコトじゃないだろ?おばさん、喜んでたし」
「・・・とにかく!オレは嫌なんだよ!!」
「ハ〜イ、ハイ。分かったって」
 ずずい、と、田島は花井に迫った。
 石鹸のいい香りがする。
「ん〜v花井、すっごくいい匂いvvv」
 スリスリと擦り寄ると、思いっきり嫌がられた。
「やめろって!!」
「ダメ、やめない」
 ニッコリと笑いながら、柔らかな唇にキスをした。
「プロポーズされて、花井も嬉しいだろ?だって、花井も、オレにベタ惚れなんだもんな!」
 唇を離してそう言うと、赤くなりながらそっぽを向いた。
「すっげー自信・・・」
「花井、オレのコト、好きだろ??」
 答えずに、花井が俯いた。
 カチカチと時計の音。
 ふと目を向けると・・・時計が0時になろうとしているところだった。
「最後に、もう一度言わせて。誕生日おめでとう、梓」
 『梓』の一声に、花井が弾かれたように顔を上げた。
「スキありっ!!」
 ベッドの上に、ポスンと花井を押し倒す。
「田島!やだって・・・!」
「大丈夫」
 ニカッと、花井に笑いかける。
「今日はキスだけ・・・」
 そしてもう一度、チュウと花井にキスをした。


〜 END 〜

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4月28日は、花井くんのお誕生日〜!!
と張り切って書いたのですが、変な話になりました・・・。
花井一家、かなり変わった一家になってしまってスミマセン。
こんなお誕生日の一日でスミマセン、花井くん・・・!!
ちなみに、お母さんからはスパイク、妹からはスポーツタオルのプレゼントですv






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