『プラス004:テレホンカード』
(24)
『はよっ!今日もヨロシクな!』
朝、出勤したジェットはいつものように社員に元気よく挨拶を交わした―――。
受付のジェロニモやフランソワーズに声を掛けて、
自分が勤務する部署に入ると、同僚を見つけて肩を抱いて挨拶する。
「よぉ、昨夜どうだったよ?」
ジェットがニヤニヤと同僚に言うと、赤くなった同僚がまぁな…と小さく答える。
「良かったな、今度会ったらちゃんと紹介してくれよな。」
そう言って自分のデスクに座って、今日の仕事内容を確認するのに手帳を開いた。
「あ……。」
手帳からヒラヒラと一枚のカードが滑り落ちて、
出社したばかりの島村ジョーの足元へ滑り込んだ。
「落ちたよジェット。」
そのカードを拾った島村ジョーは、おはようという言葉と共にジェットに渡した。
「悪ィ…、サンキュ。」
「今時、テレカを持っているなんて珍しいね。」
ジェットが落としたモノは、学生時代に貰ったテレフォンカードだった。
特に目立ったモノでもなく、綺麗な花の写真の50度数の安いものである――。
「あぁ、これは俺の宝物なんだ。」
「宝物?」
照れくさそうに手帳にはさみ直したジェットの言葉を、島村ジョーはオウム返しに聞き返した。
「そ、これがあったから今の俺があるんだよ。」
じゃあ今日も宜しくなと話を切られてしまい、
島村ジョーはそれは良かったね、自分の仕事に戻っていった。
綺麗な赤い花が印刷されたこのテレフォンカード――。
これは高校生の時に出会ったハインリヒがジェットにくれたモノだった。
街中で偶然出会った二人……。
高校生のジェットに、小さな支社に勤めるハインリヒが渡した
何の意味もないこのカードが、今のジェットにとって宝物となっている。
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この日にバイトを入れていた事をすっかり忘れてハインリヒと話していた時に、
たまたま同じバイト仲間が通りかかり、
バイトの事を思い出したジェットは慌ててカバンをかき回した。
「やっべぇ!!俺すっかり忘れてたよ!」
カバンをひっくり返すが、携帯電話も忘れてしまったらしくジェットはさらに慌てた。
そんな様子を見てフッと笑ったハインリヒは
視線の先に公衆電話を見つけて、このテレフォンカードを取り出した。
「ジェット、あの道路の向こう側に公衆電話があるから、これで掛けてこい。」
「え?あ、本当だ。」
ハインリヒに言われて気がつく公衆電話の存在に、
ひっくり返したカバンにまたモノを詰め込んでいたジェットが笑った。
「つかさ、普段携帯じゃん?ある事すら忘れてたよ。」
「それよりも、バイトとはいえ仕事にはちゃんと責任を持て。
お前一人じゃない、バイト先の従業員にも迷惑がかかるからな……。」
コツンと軽く頭を小突いたハインリヒは、またなと言い残して会社へ戻っていった。
結局、返しそびれてしまい、ハインリヒはそのまま本社に栄転、
すぐ後にハインリヒに再会した時に返そうとしたが、
それはお前さんにやったものだと受け取ってもらえなかった……。
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あれから数年―――。
街中でも公衆電話をほとんど見かける事がなくなってしまい、
時代の流れと共にこのテレフォンカードも色褪せてしまったけれど、
ジェットの心に残る思い出は色褪せる事はない。
「ジェット、おはよう…。今日も早いな。」
ポンと肩を叩かれて振り向いた先には、学生時代に出会った一人のサラリーマン……。
「仕事の出来る人間は人より早く行動……、だろ?」
「その通りだ。」
後でプレゼンのミーティングをやるからなと言い残し、
ハインリヒは足早に資料を手にして仕事に戻っていった。
この銀髪の男に出会って、この会社へ入社した――。
細かい事が大嫌いなジェットにとって、今の仕事はツライ事もあるが後悔はしない。
「アンタはもう忘れてるよな……。」
クスっと笑って、テレフォンカードを挟んだ手帳を胸ポケットにしまうと、
ジェットは自らの仕事に意識を戻した。
〜終〜
◆コメント◆
こんな淡い思い出を大事にしているジェットもいいなぁ……と、
このお題でチャレンジしてみましたv(笑)
爽やかなジェットは如何でしょうか?
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