『お題プラス005:カレンダー』
(24)




 ジェットの自宅のカレンダーは、会社から支給されたごくごく普通のカレンダーである。
 予定などが書き込まれることは、それこそ数えるほどしかない。
 けれども。
 12月のカレンダーには、大きく赤丸が付いている日があった。
 24日・・・それは、聖なる24デークリスマスイブである。
 恋人達が愛を語り合うその日は・・・。
 漢として、ジェットがやらねばならない(何を?)日であった。



 (株)ブラックゴースト、営業部営業第一課。
 優秀だが性格の悪い課長と共に、今日も課員達の一日が始まる。
「ジェット!」
 先輩職員のハインリヒから厳しく名前を呼ばれ、ジェットは彼の人に視線を向けた。
「何だ、このやる気の無いプレゼン資料は!すぐさま作り直しをしろ!!」
 額に青筋が浮かばんばかりのハインリヒの勢いに、
「スミマセン・・・」
 などと言いながら、ジェットはしおらしい態度でハインリヒに近づいた。
「お前が入社して何ヶ月経った?その間、オレは、こんな資料の作成の仕方を教えた覚えは無いぞ!?」
 ふう、と息を吐きながら、上司が二人に視線を走らせた。
「アルベルト。教育熱心なのは良いが、ほどほどにな。私は打ち合わせに出てくるぞ」
「いってらっしゃいませ」
 カツカツと靴音を響かせながら、上司が自席を離れる。
 そのまま部長に伴われ(部長を伴って、という表現の方が正しいかもしれない)、部室を出て行った。
 課長がいなくなった!今がチャ〜ンス!!
 とばかりに、ジェットはしおらしい態度を崩さないまま、ハインリヒに提案(?)した。
「作り直すよ。その代わり、オレがキチンと資料を作れたら・・・ご褒美をくれる?」
 そのつもりで、資料の手を抜いたのだ。
「はあ?」
 ハインリヒが眉を顰めた。
「何でオレが、お前に褒美をやらないといけないんだ?これは仕事なんだぞ??」
「可愛い後輩にヤル気を出させるため、ってコトで。ダメ・・・??」
 愛らしさを前面に押し出しつつ、お願いモードに入ると。
「やめろ、気持ち悪い・・・」
 冷たく、そう言われた。
「じゃあ、ご褒美ちょうだいv」
 更にプリティー光線を出しながら迫ると、、
「分かった!分かったから、その気持ち悪い目線や仕草をやめてくれ!!」
 勝った・・・!と、ジェットは思った。

 ジェットは素早く資料を整え、意気揚々と、ハインリヒにプレゼン資料の確認を依頼した。
 もともと、今回の資料はキッチリ作成の方向で纏めており、手抜きバージョンを作るほうが難しかったぐらいだ。
「どう・・・?」
「・・・上出来だ」
 ハインリヒは、やられた、というような表情で言った。
「お前・・・最初に見せた資料、わざと手を抜いたろう?」
「ど、どうして??」
「今見た資料はかなりの出来栄えだぞ。直せと言って、すぐさま直せるようなもんじゃない」
 参ったと頭に手をやりながら、
「ご褒美が欲しかったんだよ」
 そう言うと、チッ、と忌々しげな小さな舌打ちの音が聞こえた。
「でも、約束は約束だよな??」
 ずずい、と、ジェットはハインリヒに迫った。
「まさか漢に二言はないっすよねぇ、ハインリヒ先輩?」
「お前、そういうトコ、ちょっと課長に似てきたぞ・・・」
「話を逸らさない。オレのお願い、聞いてくれる約束は??」
 薄い唇から、小さな溜息が零れた。
「お願いとやらを言ってみろ」
「12月24日の予定を、オレのために空けて」
 ハインリヒのキレイな瞳が、丸くなった。
「は・・・?そんなコトでいいのか??」
「オレには重要なんですけど・・・」
「分かった。予定を空けておこう。ただし、こんなことはこれっきりだぞ。今後は手抜きは許さないからな」
「手抜きについては、謝るよ。ゴメンな?」
 ペコリと頭を下げながらも。
 ハインリヒのイブの予定を獲得!おめでとうオレ!!
 などと頭の中で思い、思わずニヤけてしまうジェットだった。
「・・・ジェット」
「ん〜?何??」
 ニヤニヤしながら返した瞬間、頭に拳骨が飛んできた。
「痛いっ!?」
「見苦しい!さっさと仕事に戻れ!!」
「ハイっ!!」
 さかさかと、ジェットは自席に戻り、資料を使っての営業計画を立て始めた。



 12月のカレンダー。
 大きな赤丸が、三重になった。
「う〜っし!」
 カレンダーの前で、ガッツポーズを取るジェット。
「頑張るぞ!」
 だから、何を・・・(笑)??



  〜END〜






◆コメント◆

リニュ後の第一作は24で・・・!と決めていたのですが、
ギャグっぽくてスミマセン(汗)。
少し早いですが、ハインさんの予定をゲットしようと頑張るジェットでした。
イブの当日の模様は、貴女の心の中で・・・。
(今年は日曜日だし、一日ハインさんを独り占めだね、ジェット!)




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