『お題08:帰宅』
(24)






 足元をフラつかせながら、ハインリヒは自宅に戻ってきた。
 その日は筆舌に尽くしがたいハードスケジュールで、今現在、腕の時計の針は真夜中の12時を差そうとしていた。
 玄関のドアを開けて、部屋に足を踏み入れると。
 リビングの辺りが明るい事に気付き、ハインリヒは「?」と思った。
 慌しい足音と共に。
「ハインリヒ!」
 目の前にジェットの姿を認め、合点がいった。
 週末は二人でゆっくり過ごそうと、ジェットを自宅に誘っていたのだ。
「・・・ただいま」
 ボソリとそう言うと、ジェットは実に魅力的に笑って、ハインリヒの頬にキスを落とした。
「お帰り、ハニー。大分遅かったな。・・・疲れたろ?お茶の準備をしようか??」
「甘いお茶が飲みたい。キャロルが良いぞ」
「はーい。了解」
 リビングに引っ込んだジェットを見送り、ハインリヒはヨロヨロとベッドルームに向かった。
 上着を脱ぎ、ハンガーに掛けて。
 疲れた身体をポスンとベッドに沈めると、強烈に睡魔が襲ってきた。
(ジェットがキャロルを準備して待ってる・・・。それに、風呂にも入りたいな・・・)
 頭の片隅をそんな思いが掠めたが。
 睡魔に抗うことが出来ず、ハインリヒはそのまま、スウと瞳を閉じた。



 甘くストロベリーの香りが漂う茶葉をポットにセットし、ジェットはハインリヒを待っていた。
 しかし、いつまで待っても、ハインリヒがベッドルームから出てくる気配はない。
「大丈夫かな・・・。大分疲れてるようだったし・・・」
 倒れているのではないか、とハッと思い至り、ジェットは慌ててベッドルームに駆けた。
「ハインリヒ?」
 部屋に入ったジェットは、苦笑した。
 ベッドの上に身体を投げ出すようにして、ハインリヒはスヤスヤと眠っている。
「お風邪を召しちまうぜ、お姫様?」
 スイと手を伸ばし、柔らかな銀の髪をくしゃりと撫でても。
 その人はピクリとも動く気配がなかった。
「今日もお疲れ・・・」
 サラリと前髪をかき上げて、白い額にキス。
 それから。
「えーと、ハインリヒのパジャマはどこだ・・・?」
 ジェットはゴソゴソとクローゼットを漁った。



「んんん〜」
 薄っすらと目を開けると、周りは暗くて。
 ハインリヒに向けられたジェットの背中が、微かに上下している。
 もぞもぞと身動きをして、自分がベッドの中に入っていること、知らない間にパジャマを着ていることにボンヤリと気付いた。
「・・・キャロルが飲みたい・・・」
 寝ぼけ眼で、ボソリと呟くと。
「ハイハイ、明日淹れてあげるから」
 小さな声が、聞こえてきた。
「ジェット・・・?」
 名前を呼ぶと、ジェットがクルリとハインリヒを向いた。
「疲れてるだろ。今日は、おやすみ」
 大きな手の平が、ポンポンとハインリヒの頭を撫でる。
「ん〜」
 ジェットに身を寄せると、褐色の瞳が優しく微笑んで、ハインリヒの背中に腕が回された。
「側にいるから、安心して」
「ん・・・」
(明日は、ジェットと一緒に・・・)
 ミルクをたっぷりと入れて、キャロルを飲もう。
 それから、朝から晩まで、ずっと二人きりで過ごそう。
 ポテンとジェットの肩先に頭を預け。
 ハインリヒは再び、ウトウトと眠りの世界に誘われていった。

 二人に安らかな眠りを運んで。
 静かに・・・夜は更けていった。



  〜END〜






◆コメント◆

短いですが、24でネタが浮かんだので、ここぞとばかりに書きました。
週末はどうぞ、二人で思いっきりベタいちゃで過ごしてくださいませ。
24万歳!!




↓ふみふみのサイトはこちら↓






ブラウザを閉じてお戻りください