『お題10:束の間の休息』
(54)
栄転と言われながらこの本社勤務に着任して一ヶ月が経っていた。
直属の上司となったシュヴァルツ氏、そして社長のボグート氏はこの世界で
本当に実力を持った切れ者だという事がこの一ヶ月でよく分かった。
社長付きとして転勤して一ヶ月―――。
初めて入社した時の新人以上に今の状況は堪えるが、
自分の可能性を引き出してくれるこの会社で、カリスマ性をもったボグート氏から
何かを学び取れればと日々必死になって働いてきた。
「……本社には慣れたか?」
「あ、ジェロニモ。」
社長も出掛けて、俺は珍しく一人社員食堂に座っていた時に、
受付を担当しているジェロニモから声を掛けられた。
「隣、空いているか?」
「あぁ、座れよ。一人で寂しく座ってた所さ。」
この男は、俺が本社に来た時からこうして気を使ってくれていた。
小さな支社からイキナリ本社勤務、しかも社長付きとあって、
目に見えないプレッシャーに潰されそうになった時や
同僚の心無い声を浴びた時などは決まって声を掛けてくれる、そんな男だった……。
「珍しいな、ここで食事をしているなんて…。」
「あぁ……。今社長はシュヴァルツさんがついて、会長と会食だろうな。
まだまだ俺が出る幕じゃない。覚える事がありすぎて大変さ。」
「そうか…。だが、あまり無理はしない方がいい。」
「ありがとう、大丈夫だ。何かあったらお前さんに愚痴るさ。」
そう言って肩をすくめた俺を見て、ジェロニモは優しく微笑んだ。
「……わかった、その時はいつでも声を掛けてくれ。」
「あぁ、朝まで付き合ってもらうさ。」
食堂で食事をしてから、オフィスに戻りまた自分の仕事についた。
相手の事まで考える人が少ないこの世の中で、
あんな風に人を包み込めるほどの男は本当に珍しい。
「この会社は本当に凄い…。」
薄っすらと雲が掛かった青空を眺めて俺は呟いた。
企業としての実力も、そしてその会社に勤める人材も一流といえるこの(株)BG社で
俺はこれから何を吸収していくだろう?
「まだまだ俺には覚える事が多すぎるな。」
一日も早く人並みの仕事がこなせるようにと、
珍しく一人になった俺は今日一日をフルに活用した。
彼、アルベルト・ハインリヒの本社勤務はまだ始まったばかりである―――。
〜END〜
◆コメント◆
リーマンで初書きは54でチャレンジしてみました。(汗)
しかも短くてすみません…。
この会社のジェロさんは自分にとってはカウンセラーっぽく感じるので
そんなつもりで書いてみましたが如何でしょう?
行き詰った時に、こうして声を掛けてくれる人がいないと、
彼は人気者なので色々と大変かと…。(笑)
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