『お題11:報酬』
(14)






「ここの最上階だ。」

そんな風に言った上司の言葉に玄関前で顔を上げると、目の前のビルがなかなか大きいものだとすぐに知れた。

しかしここまで来てもまだ今から会うであろう取引先のことを詳しく聞かされてはなくて

案内されたエレベーターの中で上司にと尋ねた。

「それで、今日のお相手は・・・。」

「丁度我が社の方も取引についての話を持ちかけようと思っていたところでな。

 しかしそれより早く向こうさまから、ぜひ対談をしてみたいという話が入ったというわけだ。」

「それは・・・。」

「ああ、どこかとの商談中に丁度お前を見かけて、気になったらしい。ということだから、まあ頑張るんだな。」

「・・・・。」

そんな上司の言葉に思わず閉口すると、丁度エレベーターが最上階への到着を告げた。


「お待ちしていたよ。」

そしていかにも社長室らしく、夜になったら盛大な夜景を拝めそうな大きな窓ガラスを背にして

その前のデスクに座っていたのは、しかしハインリヒが想像もしていなかった人物だった。

「僕がこの社の社長のイワン・ウィスキーだ。」

そう言ったのはまだ中学生にもなっていないだろう少年で、今日も上司の言葉から体を張った

商談なのだと想像していたハインリヒは思わず驚きで言葉を失った。

するとそんなハインリヒの言葉に少年は苦笑して言った。

「驚かせたかい?まあでもそれは無理はないけど・・・。とりあえず座らないか?」

「・・・失礼致しました。私はアルベルト・ハイン・・・。」

「名乗ってもらわなくても君のことはよく知っているし、後ろにいるのが君の上司だろう?

 ・・・実は君は今日商談としてこちらに来たのかもしれないけど、実は話し自体は既にまとまりかけているんだ。」

「・・・それはどういうことです?」

少年の言葉にハインリヒは一向に話を掴めずに、思わずそう尋ねたのだが

それに答えたのは彼の後ろにいた上司だった。

「・・・この社長自らが言ったのさ。契約に署名する前にぜひお前と1度会ってみたいと。

 それはもちろんお前の体を張った商談を受けたいからということだったからな。」

「!」

その上司の言葉にハインリヒは思わず我が耳を疑いたくなった。

体を張った商談というのは言ってしまえば、ハインリヒが取引先の相手方を自分の体を持って

もてなすことであって、それは今ハインリヒの目の前にいる少年にはあまりにも似使わないように思えた。

するとそんなハインリヒの心中を察したのか、苦笑して少年は立ち上がると

座ることも忘れて立ち尽くしていたハインリヒの側に来て言った。

「君はこういう取引先の相手方が望めばその体を差し出して・・・何でも言うことを聞いてくれるんだそうだね?」

「・・・・。」

少年のあまりに的確な真実を告げる言葉にどう答えたらいい考えていると、ハインリヒが答える前に少年は言った。

「それなら・・・僕の、僕の頬にキスしてくれないか?」

「・・・それは・・・。」

その唐突な少年の頼みに思わずどうしたらいいか途方に暮れていると、傍観を決めたらしい上司の声が聞こえる。

「どうしたアルベルト、社長がお望みだぞ。」

「・・・・。」

それを聞いて背中を押されたわけでもないが、今更ハインリヒに選択肢などなく

言われるがままにハインリヒは少し体を屈めて、そっと少年の頬へと一つ口付けを落とした。

すると今までの少年らしからぬ振る舞いが一気に剥がれ落ちたかのように、少年は瞬く間に

ハインリヒの目の前で頬を真っ赤に染めると、それから今度はいきなりハインリヒの頬を両手で掴むと

自分から唇を重ね合わせた。

「!!」

それは触れ合うだけのものだったがハインリヒは驚き、体を離されてからどうしようかと戸惑ったのだが

それよりも早く少年が言う。

「・・・やっぱり気に入った。契約は決定。我が社は今後とも貴社と御付き合いさせてもらうよ。」

「有難うございます。」

その言葉はどうやら後ろにいる上司に向けられたもののようで、振り返ると大げさに一礼したその姿が目に入った。

「ハインリヒ。」

だがすぐに少年に名を呼ばれ、再び振り向くと少年らしい笑みを浮かべて彼は言った。

「色々大変だろうけど、僕は君の味方になりたいんだ。だから相談があったり疲れたりしたら

 遠慮せずに僕に言ってくれないか?」

「・・・ええ、有難うございます。」

その少年のいささか興奮気味の様子に気圧されてハインリヒはとりあえず微笑を浮かべてそう返したのだが、

それに益々嬉しそうに少年は微笑んだのだった。

「じゃあとりあえず今回の契約における報酬は君からのキスだったということで。

 今後取引を重ねるごとに君にしてもらう接待という名の報酬が楽しみだ。」
 

こうしてハインリヒにまた一つ受難が増えたのだった。





〜END〜






◆コメント◆

生まれて初めての14をここで書かせて頂いたり。
何故黒4がついて来たかとかはあまり考えずに読んで下さいませ。
あえてピュア路線でいきましたが、いかがでしょうか?




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