『お題15:乱れたネクタイ』
(24)
早朝の営業部。
「おはようございま〜す!!」
まだ誰もいないだろうと思いつつも、挨拶をしながら執務室に足を踏み入れたジェットの耳に、ジェットの好きな声が飛び込んできた。
「ああ、おはよう、ジェット」
「ハインリヒ・・・。早いな」
「お前こそ。どうした?」
「本当は直行のハズだったんだけどさ。資料の忘れ物」
言いながら、ガサガサと自席を家捜しする。
「お、これこれ・・・」
目的の資料を鞄に入れたジェットは、ハインリヒに視線を当てた。
「こんなに早いのに、キミに会えるなんてラッキーだな・・・」
「朝っぱらから馬鹿なコトを言うもんじゃない」
呆れたようなハインリヒ、クスリと笑いかけた後。
ジェットの視線は、その襟元に釘付けになった。
「なあ、ハインリヒ。そのネクタイ・・・」
ハインリヒが今、身に着けているネクタイ。
それは、ジェットが以前、プレゼントしたものだった。
「ちゃんと、使ってくれてるんだ・・・」
「モノが良いからな。キチンと、長く使える」
瞳の色に良く似合うと思って贈った。
空色の、ネクタイ。
ちゃんとずっと使ってもらえるように、質の良いものを選んで。
「お前は気付かなかったかも知れんが、結構使わせてもらっているぞ。先日・・・コズミさんの所のアポロンと鉢合わせた時にも、褒められたぐらいだ」
「そう・・・」
白いシャツとネイビーのスーツを彩るそのネクタイに、ジェットは手を伸ばす。
そして、ネクタイを緩めた。
「ジェット・・・!?」
「このネクタイを乱していいのって・・・オレだけだよな?」
ネクタイを更に緩めて。
シャツのボタンを、ひとつ、ふたつ、と外した。
そして、なだらかなラインを描く鎖骨の辺りをチュ、と強く吸い上げた。
「なっ、何してやがる!?」
「オレの印を付けてるんだけど?」
口唇を離すと、白い肌にくっきりと紅い痕。
「イイか?そのネクタイ、緩める権利があるのは、オレだけだからな」
頬に口付けながら、ニヤリと笑った。
「続きは・・・今夜にでもどう?」
ハインリヒの頬が、カーッと朱を刷いた。
「馬鹿野郎っ!とっとと営業に行って来やがれ!!」
「ハイハイ。それじゃあ、行って来るからな」
「戻ってくるんじゃないぞ!!」
「あ、それは無理。課長が直帰は認めないってさ」
言いながら、ジェットは舐めるようにハインリヒの顔を見つめた。
「・・・何だ・・・??」
「いってらっしゃいのキスはないの?」
「あるか、馬鹿!!」
「え〜?カワイイ後輩にヤル気を出させてやろうっていう先輩心はない訳?」
「言ってろ・・・」
低い声でボソリと呟いて。
けれども、ハインリヒは自席から立ち上がった。
「ジェット」
「ん?何??」
グイ、と引き寄せられ、口唇に柔らかな感触。
次の瞬間、思いっきり胸元をど突かれた。
「いたっ!痛いって、ハインリヒ・・・!」
「気が済んだか!?済んだらとっとと行って来い!!」
その顔は真っ赤で。
朝から眼福だと思い、ジェットは心の底から忘れ物をした自分に拍手を送った。
「それじゃ、行って来るぜ、ハニーv」
音が出そうなくらいに大袈裟にウインクして。
ジェットはハインリヒに背を向けた。
「ネクタイ、ちゃんと直しとけよ?島村さん辺りに襲われる危険があるからな」
「〜〜〜〜っ!!言われなくてもっ!!!」
振り返らなくても、慌てて襟元を掻き合わせるハインリヒの姿が目の前に見えるようで。
クスクスと笑いながら。
ジェットは軽い足取りで自社ビルを出て、取引先へと向かった。
〜END〜
◆コメント◆
ちょっと爽やか(?)っぽくしてみましたが如何でしょうか??
やっとお題で24書けましたよ〜(短いですが)!!
電車の中のバカップルよ、ワタシにネタをありがとう!!
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