『お題25:淡い恋』
(24)






「お疲れさん、今日も残業か?」

ジェットがイライラしながら終らない仕事の打ち込みをしていると、

カップコーヒーが目の前に現れて、後ろを振り返った。

「あ、ハインリヒ……さん。」

「ジェット、ずいぶんと頑張ってるな…。」

目の前に出されたコーヒーを“ほら差し入れだ”と手渡される。





コーヒーを差し入れしてくれた上司、

アルベルト・ハインリヒはこの会社では有名だった……。

小さな支店からいきなり社長付きとしての栄転。

そしてその仕事内容さえも、新人ですら知らない者はいないだろう。

ジェットは高校の時に彼に出会い、彼を追いかけてこの(株)BGに入社し、

彼の仕事内容を知ってとても驚いたが、

今では雲の上の存在であるハインリヒに声を掛けられたのは嬉しかった。





「ありがとうございます。」

コーヒーを受け取ってお礼を言うと、ハインリヒはコツンとジェットの頭を小突いた。

「俺とお前しかいないのにそんな他人行儀に話すなよ…。」

「だけど、アンタは一応上司だし…。」

「そりゃそうだ。で、お前さんは随分と社に貢献してくれてるんだな。」

隣のデスクからイスを引っ張り出してハインリヒは腰掛けると、

自分も同じ様にコーヒーを飲みながら、パソコンの画面を覗き込んだ。

「俺のやり方が悪いらしくて、ダメ出しの連続……。

こんな計算とか苦手なんだよな〜。」

ブツブツ言いながらジェットはまたパソコンに向かってカタカタと入力し始める。

「苦手なモンでもそれが仕事なら仕方ないだろう?

ジェット、自分の不始末で残業をするのは勝手だが……。」

「分かってるよ!残業は会社に貢献するのに付けるもので、

自分の為の残業は認めねぇ……だろ?」

「だいぶ社会人らしくなったじゃないか……。」

クスクスとハインリヒは笑ってジェットの作業を暫く見つめていた。





「ったく、何で今日なんだよな〜。」

何とか仕事を終わらせたジェットは、パソコンの電源を落として、

ぐぅ〜っと背伸びをしながらネクタイを緩めた。

「今日?何かあったのか?」

何となく話しながら付き合っていたハインリヒは訳も分からず訊ねる。

「今日は俺の誕生日なの。誕生日に自分のミスで残業して、

しかもあと何時間かで今日が終るなんて超最悪……。」

はぁ…と大きなため息を吐いているジェットに、ハインリヒは笑う。

「そうか、おめでとうジェット。

そうだな…、じゃあせめて俺から飯でも奢らせてもらうか?」

「え?良いの?」

「誕生日なんだろ?俺で良ければ…、なんだが。」

「……でもさ、社長付きのアンタと新人の俺が一緒にいちゃヤバくねぇ?」

「俺は仕事は仕事で割り切って働いているつもりなんだがな……。」

「やった!じゃ、俺ラーメン食いてぇな。っと、それから……。」

「それから……?」

「やっぱイイや、ラーメンだけで。」

そう言うとジェットは、イスに掛けていたスーツの上着を着てコートを羽織った。

「ジェット?」

「ほら、アンタも支度しろよ…。」

「あ、あぁ…。」



警備室に声を掛けて二人で会社を出る。

白い息を吐きながら、二人は懐かしい思い出話に花を咲かせて

ジェットがお勧めのラーメン屋まで歩いていった。

「ジェット、さっき言いかけた事なんだが…。」

「え?あぁ……。何でもねぇよ。」

「ラーメン以外にも何か食いたいのがあったのか?」

ジェットの言いかけた言葉をハインリヒなりに考えて投げかけるが、

ハインリヒのあまりにもかけ離れた答えにジェットは思わず噴出してしまった。

「じゃ、一体何なんだ?」

カァっと赤くなるハインリヒにジェットは笑いが止まらない。

「ハハハッ!そんなんじゃねぇよ……。あ〜、ヤベェ腹痛ぇ…。」

道の真ん中でヒィヒィと腹を抱えて笑っている横で、真っ赤になっているハインリヒ。

やっと落ち着きを取り戻してジェットはゴメンゴメンと謝った。

「悪ィ、そんなんじゃねぇんだ……。」

「ジェット?」

「んと、何ていうか。こんな事言ったら怒るかもしんねぇけど……。」

そう言ってハインリヒの耳元で囁いたジェットの言葉は意外なもので…。

「やっぱいいや、ごめん忘れて…!」

囁いたジェットは真っ赤になりながらフイッとハインリヒに背を向けた。

そんな仕草や表情は学生時代のジェットと変らない―――。

「……今日はお前さんの誕生日だから特別だぞ。」

憧れの存在になってしまったハインリヒと部下のジェット。

ジェットの可愛いおねだりに、ハインリヒも真っ赤になりながら答えた。






その後、お勧めのラーメン屋で暖かいラーメンを食べた後、

ジェットの可愛いおねだりを叶えるべく、

二人はそのまま深夜のイルミネーションの中へ消えていくのだった――。





〜終〜






◆コメント◆

ジェットの誕生日なので、普段は忙しいハインさんに甘えてもらいました。
その後、何処へ行ったのかとか、ジェットが何をおねだりしたのかは、
皆様のご想像にお任せいたします。(笑)

ジェット、誕生日おめでとう!







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