『寿司食いねえ!』
(黒4課長)
*ギャグな黒4課長を受け付けない方は読まないで下さい*
とある週の始まり。
(株)ブラックゴースト営業第一課長のシュヴァルツが、部下のハインリヒにサワヤカに微笑みかけた。
「アルベルト。今週末、私の自宅に遊びに来い。寿司を食べさせてやるぞ。前に好きだと言っていたろう?」
思いっきり迷惑そうな顔をするハインリヒ。
しかし、シュヴァルツはそんな部下の様子などアウトオブ眼中だった。
「これは上司命令だぞ?良いな・・・?」
などと、パワハラしまくりの上司に、
「・・・分かりました・・・」
渋々と答えるハインリヒ。
「課長!!」
ビシッと手を挙げ、ジェットがシュヴァルツを呼んだ。
「何だ、リンク?」
「オレも課長の家に行きたいです!行ってもイイっすか!?寿司食いたい!」
ふう、と小さく、シュヴァルツは溜め息を吐いた。
「お前も一応、私の部下ではあるし・・・仕方ないな・・・。アルベルトに連れてきてもらえ」
「やったぁー!!オレ、課長の家、初めてだ〜!!」
喜ぶジェットの背後から、ヒョイと栗色の髪が見えて。
「シュヴァルツ課長、ボクも行きたいでぇ〜す!!」
隣の課のジョーまで、シュヴァルツ邸行きを志願する。
「島村さんは、隣の課だろ!?」
そういうジェットに、島村はフフンと笑って見せた。
「ボクは優秀だからね。次の異動では、シュヴァルツ課長の直属の部下になる予定だよ、ゲンミツに!!そうですよね、課長v」
「島村は私の部下になりたいのか?」
「はい!ボク、将来は課長みたいな敏腕になるのが夢なんですvvv」
「良い心がけだな、島村。お前にも、我が家への来訪を許可してやるぞ」
「うわーい!ありがとうございま〜す!!」
ジェットとジョー、二人を連れてシュヴァルツ宅に訪問しなければならないと思うと、クラリと眩暈のするアルベルト・ハインリヒ(30)であった・・・。
そして、上司のお宅訪問の日がやってきた。
ハインリヒの重い心とは裏腹に、見上げた空は快晴である。
課長宅の最寄の駅で、ジョーとジェットを待った。
ハインリヒは時間5分前から待っている。
時間キッチリにジョー、5分遅れてジェットがやってきた。
「ジェット、遅いよ!!」
ジョーがジェットの額を弾く。
「寝坊しちゃって・・・!」
「課長に言いつけちゃおっとv」
「・・・勘弁してください・・・」
「ジョー、それぐらいにしておけ。行くぞ」
ハインリヒがジョーを促し、三人が駅から離れようとした時。
「おやおや、三人揃って何処にお出かけかな?」
休日にまで聞きたくない声が背後から聞こえ、ハインリヒはビクリとした。
「会長、社長!?」
ジェットの驚いたような声と、
「あ、こんにちは〜v」
ジョーが如才なく挨拶をする声。
もはや、気付かなかった振りをする、という選択肢はなくなった。
「・・・こんにちは・・・」
渋々と背後に顔を向けると、ボグートがニヤリと笑った。
「何処に行くのかね、ハインリヒ?」
「シュヴァルツ課長のお宅訪問っす!」
バカ正直に答えるジェットに、ハインリヒは頭を抱えたい気分になった。
案の定、会長と社長は顔を見合わせてニヤリと笑った(会長のニヤリは仮面に隠れてはいるが、確かにニヤリと笑ったように見えた)。
「それはいい!我々も是非、同行させてもらおうではないか」
「そうですな、会長」
「課長にもご都合があるのでは・・・」
遠慮がちにハインリヒが言うと、ボグートがスラックスのポケットから携帯電話を取り出した。
ピピピ、と軽やかに、どこかに電話をかけている。
「シュヴァルツか?私だ、ボグートだ。今偶然、駅前でハインリヒ達に会ってな。今からお前の家に行くというのだが、私達も行ってもイイな?会長もご一緒だ」
パチリと携帯を閉じて、ボグートはニヤリと笑った。
「シュヴァルツから許可を得たぞ。これで文句はあるまい」
そして、スカールを振り返った。
「さあ、会長。参りましょう」
ボグートは何故か一同の先頭となり、颯爽と歩き出した。
ハインリヒはその最後尾をトボトボと付いて行きながら、なんとかこの恐ろしい課長宅訪問から逃れる術は無いかと頭が痛くなるほど真剣に考えたが・・・全く良いアイディアが浮かばず、気付けばシュヴァルツのマンションの目の前に到着していた。
シュヴァルツの自宅は、某都内高級マンションの44階である。
このマンションの一室に何が待ち受けているのか考えると非常に憂鬱であったが、ハインリヒはピンポンと玄関の呼び鈴を鳴らした。
「ハインリヒです」
「ああ、良く来たな。入りなさい」
シュヴァルツの声と共に、カチリと自動的にドアが開いた。
「失礼します」
中に入った途端、
「うおっ!?」
ジェットが嬉しそうな声を上げた。
「すげー!!なんか、ヨーロッパの城みてえ!」
シュヴァルツ邸の家具は、全て重厚なアンティーク調の物に統一されている。
課長本体はともかく、ハインリヒはこの家の雰囲気は好きだった。
「ダイニングの方へ・・・」
奥から声が聞こえ、一行はシュヴァルツから指定された場所へと向かった。
「うえっ!?」
ジェットが、今度は頓狂な声を上げた。
「!?」
辿り着いた空間は・・・まるで、本当の寿司屋のようで。
カウンターが設置されており、その奥のシュヴァルツは、有り得ないほどにサワヤカに一行に笑いかけた。
「へい、らっしゃい!」
ご丁寧に寿司屋の制服のような衣装を身に付けた、シュヴァルツからの日頃からは考えられない一声に、ハインリヒはどこか泣きたいような気分になった。
敏腕課長として鳴らしているシュヴァルツのイメージが・・・イメージが・・・。
「課長っ!!」
毎日がパワハラ&セクハラな課長でも、実はちょっぴり尊敬していた、という事に気付かされ、ハインリヒは涙目になった。
「どうした、アルベルト?私のあまりにも完璧な姿に驚いたか?」
ニヤリとハインリヒに向かって笑みを見せた後、シュヴァルツは他の面々ににこやかに微笑みかけた。
「会長、社長、いらっしゃいませ。リンクと島村はよく来たな」
そしてシュヴァルツは、頭のはちまきをキュッと締め直した。
「何から召し上がりますか?」
シュヴァルツが握った寿司は、非常に美味だった。
スカールとボグートが、舌鼓を打ちながら、絶賛する。
「シュヴァルツ!!いい仕事をしているな!」
「美味い・・・口の中でシャリがパラパラと解れる感触がたまらん」
「・・・お褒め頂いて光栄です」
二人に向かって優雅に一礼した後、シュヴァルツはハインリヒに顔を向けた。
「アルベルト。お前の感想は?」
接待で一流と言われる寿司屋に何度も行ったことがあるが、シュヴァルツの握った寿司は、それに負けず劣らず美味かったので、ハインリヒは正直に答えた。
「まるで寿司職人のような仕事振りです・・・!」
「課長、オレ、穴子が食べたい!」
ジェットのリクエストの穴子を握りながら、シュヴァルツは満足そうに頷いた。
「当たり前だ。お前に美味い寿司を食わせてやろうと思ってな。空いた時間を利用して、知り合いの寿司職人に指導を受けたのだ」
「シュヴァルツ課長、ボク、ウニが食べたいですv」
手早く軍艦巻きを作り、シュバルツは華麗な手付きでジョーの前に置いた。
「私の辞書に、不可能という文字はない」
誇らしげに胸を張り、そう言い切る上司の姿に、ハインリヒは心の奥底で安堵した。
『へいらっしゃい!』
とか言ってしまうシュヴァルツより、セクハラでもパワハラでも、いつもの自信満々なシュヴァルツの方が何万倍もマシである。
そう思うハインリヒの前で、シュヴァルツは優雅に寿司を握り続けた。
心行くまで寿司を食べつくし、一同は非常に満足そうであった。
「ご満足いただけましたか?」
皆に熱いお茶を差し出しながら、シュヴァルツが尋ねる。
「非常に」
「めちゃくちゃ」
「とっても!」
「もちろん」
口々にシュヴァルツに対する賞賛の言葉が飛び出す。
魅力的な上司は魅力的に笑い、一同を見回した。
しかし・・・。
「まいどあり!!」
上司の形の良い口唇から飛び出したその言葉に、再び脱力するハインリヒだった・・・。
・・・ハインリヒは、何故かシュヴァルツの後片付けを手伝わされていた。
寿司に満足した一同がイソイソと帰り支度を始めた際。
「アルベルト」
シュヴァルツに名前を呼ばれ、言われたのだ。
「片付けを手伝え」
そして、ニッコリと極上の笑みでボグートに笑いかけた。
「ハインリヒをお借りして宜しいですか、社長?」
「構わんぞ。今日は休日だしな」
鷹揚に頷くボグートに、シュヴァルツは礼を述べた。
「ありがとうございます」
ジェットも手伝うと駄々をこねたが、ジョーに引きずられるようにしてシュヴァルツ邸を辞していった。
リビングの寿司セット一式を綺麗に片付け、シュヴァルツ邸のリビングがいつもの様相を取り戻す。
「アルベルト。ご苦労だったな」
コポコポとカップに茶を注ぎながら、シュヴァルツがハインリヒを労った。
ふんわりと優しく、湯気が香る。
「ダージリンですか?」
尋ねると、
「・・・お前の好みだろう?」
当然といったように、返事が戻ってきた。
「可愛いお前のためならば、私はどんなことでもしてやるぞ?」
頭に血が上り、カッと頬が赤くなったような気がした。
「課長!またそんな、ご冗談を・・・」
「私はいつでも本気だ」
ニヤリと笑い、シュヴァルツはハインリヒの顎に手をかけた。
「さて・・・。これから、お前という極上のネタを味あわせてもらうとするか・・・」
端整な顔が間近に迫り、ハインリヒは、ギュッと瞳を閉じた。
〜END〜
◆コメント◆
まとまならい話でスミマセ〜ン!!
このお話のネタは、神咲ハヤト様から頂戴しましたvvv
ハインリヒのために、影で涙ぐましい(?)努力をしながら
寿司を握れるようになった黒4課長。
という裏設定があったり(笑)。
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