『クリスマス』
(24)

**お題プラス005「カレンダー」の続きになります**






 いよいよ、決戦の日がやってきた。
 今日はクリスマスイブである。
 ハインリヒの一日は既に予約済みという、この喜ばしさ。
 鏡に向かい、ジェットは仕度に余念がなかった。
 念入りに髪を撫で付け(効果があるかは定かではない)、キッチリとコートを羽織って、ジェットはウキウキとハインリヒ宅に向かった。



 ハインリヒ宅の玄関のベルを鳴らす。
 しかし、何回か鳴らしても、全く反応がない。
「おかしいなぁ・・・。今日はオレと約束のはずだよな(確か)。ハッ!?まさか課長か島村さん辺りが、嫌がるハインリヒを無理やり・・・!?」
 などと被害妄想たっぷりに考えながらしつこくベルを鳴らすと。
「うるさいっ!!押し売りならお断りだぞ!!!」
 バン!とドアが開き、ハインリヒが登場した。
 瞳を怒らせて現れたその人であったが、目の前に立っているジェットを見て、『??』な表情になる。
「ジェットか。何か用か?」
 柔らかそうな髪には、癖が付いている。
 おそらく、寝癖であろう。
 その時、ジェットは分かってしまった(分かりたくなかったが)。
 ハインリヒは、約束を忘れてしまっていたのだ・・・!!
(前もって、確認しておかなかったオレがバカだった・・・)
 ガックリとそう思いながら、ジェットはめげずにハインリヒに微笑みかけた。
「おはよう、ハインリヒ。今日はオレのために予定を空けておいてもらうハズだったんだけど?」
 ハインリヒがあからさまに、しまった!というような顔になった。
「あ〜、なんというか、その・・・。忘れていたわけではなく、ちょっと寝坊を・・・」
「それを忘れてた、っていうんじゃない?」
 恨みがましくジェットがそう言うと、ハインリヒは困った顔をしながらジェットを自宅に招き入れてくれた。
「まあ、入れよ。すぐに仕度をするから待ってろ」

 ハインリヒの部屋は、綺麗に整頓されていた。
 あまり、物のない部屋である。
 ボンヤリと周りの家具などを眺めていると、やがて、ハインリヒが現れた。
「待たせたな」
 白いマフラーをバサりと首元に巻きながら、尋ねられた。
「で?一体お前は、オレを誘ってどうしようっていうんだ??」
「キミが好きな場所に連れて行くよ」
 胸元に手を当て、ジェットは恭しく、ハインリヒに向かって一礼した。



 電車を二回ほど乗り継いで、少し大きめの街に出た。
 クリスマスイブの街は、人で溢れている。
「何だこの人の多さは!?」
「まあまあ、イイじゃない。黙って付いておいでよ」
 黒い手袋越しにハインリヒの手を取って、ジェットは歩き出す。
 人波を、上手にすり抜けながら。

 やがて大きなデパートに辿り着き、ジェットはズカズカとその中に入った。
「どこに行くんだ、ジェット?」
「もうすぐだから」
 不満そうな顔のハインリヒであったが、辿り着いた先の看板を見て、パーッとその表情が華やいだ。
 その場所は、某有名ティールームであった。
「キミが好きそうだと思って。来たことある?」
「名前は常々聞いていたが、実際に足を運んだのは初めてだ」
「軽食も食べられるし、ここで昼食でもどう?スタートが遅れちゃったから、少し待つけどね」
 キラキラとハインリヒの瞳が輝いた。
 ジェットの思っていたとおりの反応で、嬉しくなる。
「喜んで・・・!待つなんて、オレには全然苦じゃないぞ!」
 言いながら、ハインリヒはポスンと順番待ち用の椅子に腰を下ろした。
 メニューを手に取り、あれにしようかこれにしようかと悩んでいるハインリヒに、ジェットはクスリと笑みを零した。

 店の中に入ることが出来ると、ハインリヒはご機嫌な様子で、すぐさまウェイトレスを呼んだ。
「ジェット。お前は何にするんだ?」
「スパゲティ。紅茶付きで」
「パスタを二つ。ホットの紅茶付きで。食後にベリーパフェを二つ」
「へ?」
「デザート、すごく美味そうだぞ。お前も食べるだろう、ジェット?」
 満面の笑みを見せられ、ジェットは思わず答えていた。
「いただきます」
「以上でお願いしますv」
「かしこまりました」

 スパゲティを食べ、アールグレイのお茶を飲む。
 ハインリヒは幸せそうである。
 しかし、パフェが目の前に現れた時のハインリヒの笑顔は最高だった。
 蕩けそうな笑顔がパフェに向けられる。
 少なくともジェットが記憶する限り、ここまで甘い笑顔を見せて貰ったことはない。
(オレって、パフェより下なんだ・・・)
 などと、ジェットは些か悲しく考えた。
「バニラアイスの上品な甘さ!舌の上で冷たく溶けていく感触がたまらんな。生クリームもあっさりとしていて美味い!」
 立て板に水、といった風に、ハインリヒがパフェについての感想を述べた。
 それきり黙って、ひたすら食べることに集中している。
 美味しい物を食べる時、ハインリヒが黙り込んでしまう癖があるのを、ジェットは知っていた。
 だから、喜んでもらえているのだということが分かって、幸せな気分で、パフェを攻略していくハインリヒを見つめた。
 ベリーの層に辿り着いたハインリヒが、再び喜びの表情で感想を述べた。
「ベリーも甘い、美味い!良い食材を使っているな・・・」
 そしてまた、黙って食べ続けるハインリヒを、ジェットも黙って見守った。
 言葉こそなかったが、その場にはほんわりと優しい空気が流れた。
 その空気に心和まされて、ジェットは絶えず微笑みながら、ハインリヒを見つめた。

 店を出る時、支払いは自分がするのだとジェットが主張すると、ハインリヒは渋々ながらそれを認めた。
 それから、デパートでフラフラとウィンドウショッピングをした。
「ハインリヒ、何か欲しいものない?プレゼントさせてよ」
「要らん。さっきのパフェで十分だ。だが・・・本屋に行きたい。付き合えよ」

 本屋で買い物を済ませると、もう夕方だった。
「ハインリヒ、夕飯を・・・」
 言いかけて、遮られた。
「レストランでの食事とか、そんな物は要らんぞ。昼に、豪華ランチをしたんだからな。若いうちは、金をあまり余計なことに使うもんじゃない」
「でも、オレが誘ったんだし・・・!まだ一日終わってないし・・・!!」
「じゃあ、こんなプランはどうだ?」
 ハインリヒが、ニヤリと笑った。
「今日の礼に、夕飯はオレの家で食わせてやるよ」
「え・・・?」
 思わず目を丸くすると、ハインリヒが言葉を続けた。
「幸いなことに、明日も会社は休みだ。朝は少し出遅れちまったが、約束通り、今日一日はお前と・・・」
 語尾が小さくなって、ハインリヒがフイと横を向いた。
「ハインリヒ、それって・・・」
 彼なりの誘いだということを理解し、ジェットは心の中から幸せが溢れ出てしまうのではないかと思い、そっと胸を押さえた。
「返事はどうした?」
 早口での問いかけに。
 満面の笑みを頬に浮かべて、今度はジェットが答える番だった。
「喜んで・・・!チキンとかケーキを買って帰ろうぜ!そんくらいなら、オレに払わせてくれるだろ?食事の仕度のお礼ってことで」
「まあ、そのぐらいなら・・・許可してやっても良いぞ」
 悪戯っぽく、ハインリヒが笑った。



 赤いイチゴがたくさん乗ったケーキの箱、チキンが入った紙袋をそれぞれ手にして。
 二人は、電車に揺られていた。
 車窓から見えるイルミネーションが、徐々に遠ざかっていき・・・。
 電車は少しずつ、ハインリヒの家に近づいていった。



   〜END〜






◆コメント◆

物語の続きは、あなたの心の中で・・・。
あんまりクリスマスっぽい話にならずスミマセン。
ハインさんがマイ設定に満ち溢れていて(いつものことですが)スミマセン。





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