『追憶』
(7黒4)
※ リーマンお題「出張」の番外編としてお読みくだされば・・・
ソファに深々と身体を沈め、薄い口唇から紫煙を吐き出しながら。
シュヴァルツは過去に思いを馳せた。
もう何年前になるだろう。
若いがなかなかの遣り手との評判を得ていたシュヴァルツは、地方支店から本社勤務へと異動を命じられた。
本社へ出勤して、第一に関わりを持った人物は、社長のボグートだった。
一介の平職員である自分が直接社長と対面だと思うと、多少動悸が高くなったような気がしたが。
シュヴァルツは自身の能力を高く評価しており、平職員で終わる気は更々なかったし、比較的落ち着いた態度でボグートと対面することが出来た。
「この度、本社勤務を命じられましたシュヴァルツです。私をお呼びだと伺いましたが?」
革張りの立派な椅子に腰を下ろしているボグートは、堂々たる体躯の偉丈夫だった。
葉巻を口にくわえ、煙を吐き出しながら。
彼はまるで品定めをするように、不躾にシュヴァルツに視線を当てた。
「ご用件は?」
重ねて問いかけるようにしたシュヴァルツに、ボグートはどこか満足げな笑みをその頬に浮かべた。
「思ったとおりのイイ玉だ。度胸も合格点だな。本日付で、社長付となることを命じる。私の手足となって働け」
「お望みのままに・・・」
シュヴァルツは深々と一礼する。
ボグートは椅子から立ち上がり、シュヴァルツの顎に指をかけた。
「企業戦士として、自分の身体を武器に使わねばならない時もある。それは承知しているか?」
「存じております・」
「ほう・・・なかなかいい覚悟だな」
「ありがとうございます」
「では、お前の手並みを見せてもらおうか?」
ボグートの口元が緩み、口唇を重ねられた。
シュヴァルツも軽く笑んで、大人しく口付けを受けた。
口内に入り込んできたボグートの舌に自身のそれを絡めながら、器用に彼のスーツの前ボタンを外していく・・・。
そのままボグートに抱かれた。
「・・・完璧だな・・・」
事が終わった後、ボグートの口唇からそんな呟きが漏れた。
「お気に召していただけましたか?」
「無論」
そしてボグートは、社長室の奥にあるドアを指差した。
「あっちが浴室だ。これから出掛ける。身支度を整えるように」
「は・・・。了解いたしました」
床に散らばった衣類を手に取り、シュヴァルツは浴室に向かった。
ボグートに連れられた先は、とある高級ホテルのロビーだった。
「どうしても、取引を拡大したい企業がある。そこの重役が、今日、ここに来ているという情報を得たのでな・・・。遣り手と謳われたお前の手腕を見せてもらいたい」
ロビー内を一通り見回し、ボグートはある人物を指差した。
「アレだ・・・」
「グレート・ブリテン・・・!」
国内でも知らぬ人はない、大企業の重役。
テレビなどでも時折顔を見かける。
「お前も顔ぐらいは知っているか?あの企業の広告塔のような人物だ。社内の実力者でもある」
言いながら、ボグートは足早にグレートに近付いていった。
「ミスターグレート!」
ボグートが声をかけると、その人物はゆっくりとこちらに視線を向けた。
穏やかそうな顔をしてはいるが、瞳は油断なく光っている。
「君は確か・・・」
「お取引をさせていただいております、(株)BGの社長のボグートです」
「ああ・・・そうだったね」
「先日は、我が社の製品を導入いただき、ありがとうございました。偶然お姿を拝見したので、お礼に伺おうと・・・」
「わざわざご丁寧に」
温厚に笑いながら、グレートは差し障りのない返答をした。
ボグートは身体の位置を少し動かし、シュヴァルツの姿がグレートに見えるようにしながら続けた。
「ミスター。私の部下を紹介させていただいてもよろしいでしょうか?この度、社長付となった、シュヴァルツです。今後は私の直属の部下として働かせますので、どうぞお見知りおきを」
「初めまして、ミスターグレート。社長付のシュヴァルツです。ご高名はかねがね。お会いできて光栄です。名刺をお渡ししても構いませんでしょうか?」
「・・・いただこう」
ボグートがさり気ない風を装いながら、腕の時計に目をやった。
そして、申し訳なさげにグレートにこう言った。
「私はそろそろ次の場所に移らなければなりません。ミスター、もしよろしければですが、シュヴァルツを残していっても構いませんでしょうか?ミスターから、色々とためになるお話を伺えれば、今後の業務の参考になるかと・・・」
ボグートがチラリとシュヴァルツに視線を走らせ。
シュヴァルツは片頬を上げ、グレートに向かって笑いかけた。
「色々とご指南いただけますか、ミスター?」
「君が良ければ、そうしようか」
「よろしくお願いいたします」
優雅な仕草で一礼するシュヴァルツの姿に、グレートが目を細めた。
「それでは、ボグート君。シュヴァルツ君はお借りするよ」
「はい。よろしくお願いします。シュヴァルツ、ミスターに無礼の無いように」
「分かっております」
ボグートがその場を去ると、グレートは柔和な笑みを浮かべながら、シュヴァルツを見つめた。
「一緒に、お茶でも飲むかね?」
「ありがとうございます」
ホテル内のティールームに連れて行かれた。
シュヴァルツが紅茶を頼むと、グレートはひどく嬉しそうに笑った。
「君は紅茶党かね?私も好きでねえ」
「湯気とともに立ち昇る香りが好きですね。色も美しいですし、味も上品で」
「そうだね・・・」
他愛ない会話を織り交ぜながら、シュヴァルツはグレートの会社を褒めちぎりつつ、さり気なく営業を開始した。
「御社ももうすぐ20周年と伺っております。御社ほどになれば、会社の歩みなどをさぞかし立派にお作りになられるのでしょうね」
「そんな話も出ているね。・・・そう言えば、君の所も製本を取り扱っていたように記憶しているが・・・?」
「我が社の出版部は、まだ出来て間もないですし・・・。御社の出版物を取り扱うにはまだ力不足かと・・・」
クスリと笑いながら、グレートはシュヴァルツの手に、自身の手を重ねた。
丁度いいタイミングで、二人のティーポットは空になっている。
「おいで、シュヴァルツ君。私は、君と取引がしたい」
「・・・光栄です」
グレートに導かれるがままに、ホテルの一室に足を踏み入れた。
「私が今、滞在している部屋だよ。どうして連れてこられたか、君なら既に分かっていると思うが・・・?」
彼にとって出来るだけ魅惑的に見えるように意識しながら、笑う。
「ミスターのお望みのままに・・・」
言いながらスーツを脱ごうとする手元に触れられた。
「私は、脱がせるのが好きなのだがね・・・?」
「これは失礼しました」
グレートがベッドルームのドアを開ける。
シュヴァルツの褐色の指が、見るからに上等の生地で仕立てられているグレートのスーツのボタンにかかった。
紅の瞳が、悪戯っぽく笑った。
「それとも、ご自分で脱ぐ方がお好きですか?」
喉を鳴らしながら、グレートも笑った。
「いや・・・。君に脱がせて貰うことにしよう」
ベッドに腰かけたグレートの服に触れ、器用に脱がせていく。
既に昂ぶりを示しつつある彼の中心部に、そっと口をつける。
チュとキスをすると、次第に硬さを増す。
先端をチロチロと舐め、丁寧に口唇で扱いた。
次第にグレートの呼吸が荒くなり、腰がブルリと震えて。
口内一杯に吐き出された欲望の証を、ワザと音を立てながら飲み込んだ。
グレートのそれから口唇を離し。
微かに上気した顔で、シュヴァルツは彼を見上げた。
「美味しゅうございました」
飲み込みきれずに口唇の端を伝った液体をペロリと舌で舐め取る。
「なかなかいい眺めだねぇ・・・」
グレートが呟いた。
「お褒めいただいて光栄です」
立ち上がると、今度はシュヴァルツがグレートを見下ろすような形になった。
「おいで」
腕を軽く引かれ。
グレートの腕の中に抱き寄せられて、ベッドの上に押し倒された。
実に楽しそうに、グレートは服のボタンを外していく。
服を脱がされながら、生暖かい舌で首筋や鎖骨を舐められた。
胸の飾りを丁寧に弄られ、シュヴァルツの身体が微かに震える。
グレートの指がスルリと、シュヴァルツの敏感な部分に触れて。
「・・・・つっ!」
「具合はどうかね・・・?」
指が一本、二本・・・。
中で蠢いている指が、あるポイントを掠めて。
「くっ・・・」
僅かに声を漏らすと、嬉しそうな声が振ってきた。
「声を我慢する仕草がたまらんねえ・・・」
じっくりと慣らされてから、指より大きなものがゆっくりと進入してきた。
「・・・具合は如何ですか?」
尋ねると、やっぱり楽しそうな声で、
「ん?・・・最高だよ」
答えが戻ってくる。
グレートが腰を動かし始め、シュヴァルツもグレートがイイようにと、自らも腰を動かした。
受け入れた部分から、ぐちゅぐちゅと音がして。
シュヴァルツは頭の片隅で、自分も感じている事を理解した。
「シュヴァルツ君・・・」
「・・・如何されましたか?」
「もう、いいかね?」
シュヴァルツは嫣然と笑った。
「どうぞ、ミスター。お望みのままにと申し上げたでしょう?」
深く突き上げられ、快楽の大きな波に襲われた。
「・・・・はっ・・・」
「!!」
シュヴァルツはグレートの頬に指を伸ばし、深く、口付けた。
「ご満足いただけましたか?」
「それはもう。今後、君が私の担当になってくれるのなら、君の所ともっと取引を拡大してもいい位だ」
ボグートの思惑どおりの言葉をグレートから吐き出させることに成功し、褐色の頬に深く笑みを刻んで、シュヴァルツは少し皺のある頬に口付けた。
「ありがとうございます、ミスター。今後もどうぞ、よろしくご指導の程を・・・」
社に戻ると、上機嫌なボグートがシュヴァルツを待っていた。
「ミスターグレートが、取引を拡大したいと申し入れてきた」
「社長のお望みどおりになりましたね」
ボグートがニヤリと笑った。
「お前の手柄だ。良くやったな。これからも、私のために働くように・・・」
「何なりとお申し付けください」
ボグートの指が、サラリとシュヴァルツの髪を撫でた。
「褒美をくれてやろう」
「・・・ありがとうございます」
シュヴァルツはそのまま大人しくボグートに身を任せた。
グレートの会社とは、その後も何度も、大きな取引をしてもらった。
他にも、多くの大口取引先を新規開拓し、ボグートの片腕としての地位を固めて・・・。
「何か、昔の事を思い出してしまったな・・・」
呟きながら。
吸い終えた煙草を、ぎゅっと灰皿に押し付けた。
課長に昇進すると同時に社長付から外れ、新しい社長付としてアルベルト・ハインリヒがやってきた。
シュヴァルツとハインリヒは顔こそ似通っていはいるが、性格はまったく違っていた。
「しかし・・・社長付としての素質は完璧だ・・・」
隣の部屋から漏れる喘ぎ声を聞きながら、シュヴァルツはフッと笑った。
「アルベルト・・・お前には、しっかりと私の後を勤めて貰わねばな・・・」
そしてシュヴァルツは、二本目の煙草に火をつけた。
〜END〜
◆コメント◆
無駄に長くなってスミマセン。
あまりえっちにならなくてスミマセン。
受けの黒様を書くのは、きっと最初で最後。
本当にスミマセ〜ン(脱兎)!!
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