恋の罠しかけましょう




 ジムの練習が終わりを迎えようとした頃。
 隣でサンドバックを叩いているあの人に、ボクは声をかける。
「木村さん」
 あの人の黒い瞳が、僕を見つめる。
 それだけでボクは、ひどくドキドキした気分だ。
「ん?何か用か??」
 木村さんは、優しく尋ねてくれる。
 誰にでも優しい人だから。
 ・・・そんなところが好きなんだけど。
「ちょっと、相談事があるんです。今日終わったら、いいですかね?」
 真面目な顔を作って、お願いする。
 木村さんはキョトンとした表情になり、ボクに答えを返した。
「相談事?そんなの仲良しの一歩にすればいいだろうが」
「先輩じゃダメなんです。木村さんに聞いてもらわないと」
「・・・そうか。それなら・・・」
 頼られると、無下に出来ない。
 あなたがそんな人だと、ボクは知っている。
 そこに付け込んで、畳み込むように告げた。
「じゃあ、終わったら。出口で待ってますから」
 そうしてボクは、練習に戻った。

 練習後、汗を流したボクがジムを出ると。
「よう」
 木村さんが軽く手を上げて合図をしてくれた。
 殊勝な顔をして、ボクは笑う。
「ありがとうございます、付き合ってもらって」
「ま、イイってコトよ」
 本当に、あなたは優しい人。



 ジムから少し離れた場所にあるレストランに場所を移し、とりあえず食事をした。
 食後のコーヒーを飲みながら、木村さんが尋ねてくる。
「で?」
「え?」
 とぼけると、木村さんがボクの額を小突いた。
「え、じゃねえだろうが?お前の相談だよ、相談。一体、何があったっていうんだ?」
「えっとですね〜」
 モジモジとするボクを、木村さんが促す。
「何だ?早く言えよ」
 ボクは、今現在の自分の悩みを木村さんに話した。
 それはもう、正直に。
「最近、すごく気になる人がいて・・・。暇さえあればその人のことを考えていて、いつも一緒にいたいとか、側で笑っていて欲しいとか・・・」
 言い終えてチラリと上目遣いで木村さんの表情を伺うと。
 クスリと木村さんが笑った。
「おいおい、板垣。それはな、恋してるんだよ」
「恋ですか・・・」
 笑ってる場合じゃないですよ、木村さん。
 誰の所為でボクがこんなコトを思っているのか。
 分かっても、そんな風に笑ってられますか?
「お前が好きになるんだから、さぞかし可愛い子なんだろうな」
 ええ、可愛いですよ。ものすごーく。
 笑顔とか最高だし。
 今だって、すごく可愛らしいvvv
「木村さん・・・ボクが気になる人、教えてあげましょうか?」
「ん?」
 あ。ちょっと興味ありそうな表情。
「俺も知ってる子か?」
「もちろんですよ」
 だって、だって・・・。
 木村さんが微かに身を乗り出してきた。
「先輩達には内緒ですよ?」
「おう」
 ニコリ。
 ボクは笑う。
 大好きなあなたに向けて、最高の笑顔で。
「ボクが気になる人は、あなたですよ。木村達也さん」
 笑顔のボクとは裏腹に、木村さんは一瞬、凍りついたように見えた。
 ニコニコと微笑を絶やさないボク。
 コーヒーのカップをソーサーに戻し、
「おい。冗談だろう?」
 木村さんは半泣きだ。
 泣きそうな顔も可愛いな〜v
「本気も本気ですよ」
 サラリと答えると、木村さんは笑った。
「は・・・はははは・・・・」
 そのまま無言で、コーヒーを飲む。
「そろそろ、帰ろうか?」
 視線が、宙を彷徨ってるんですけど・・・。

 別れ際。
「返事は急ぎません」
 そう言うと、木村さんはやっぱり半泣きのような表情でボクを見た。
「板垣・・・」
「もう一度言いますけど、本気ですから」
 木村さんの言葉を遮って、主張する。
 ガクリと木村さんが肩を落とした。
「・・・それじゃあな・・・」
「今日はありがとうございましたv」
 去っていく木村さんの後姿に哀愁が漂う。
 でも、仕方ないじゃない。
 好きなものは好きなんですっ!!!



 ホラ、背中に、あなたの視線を感じる。
 あんなコト言われたから。
 意識してしまうでしょう、ボクのこと。
 だってボクはこんなにイイ男で、将来有望だし、何より木村さんのことを誰よりも大切に思っている。
 お買い得だと思いませんか?
 あなたが好きだという、ボクの意思表示。
 罠は仕掛けましたよ。
 後は、あなたがボクの腕の中に落ちてくるのを待つだけ。
 それも、時間の問題じゃないかな。
 なんて思うのは、ボクの自惚れですか?
 パチリとウインクをして見せると、あなたは慌ててボクから視線を逸らしたけれど。
 シャドーの動きがチグハグですよ、木村さん。

 恋の罠、しかけましょう。
 大好きなあなたに。

 ボクには分かりますよ。
 もうすぐあなたは、ボクのモノになる。
 必ず・・・ボクの手の中にあなたを抱きしめてみせますから!!
 なんて思い、ボクは一人、クスリと笑った。




〜 続く? 〜


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木村さんを愛する気持ちが高じてしまい、とうとう一歩にチャレンジ。
初キム受作品は、板木になりました。
多分続きます。木村さん、まだ板垣くんに返事してないし(爆)。
本当は宮木が書きたかったのですが、某イベントに備えて、とりあえず板木。
でも、板木も好きなんだよ〜。
おかしい、私は板垣カプなら、板間が好きなはずだったのに(爆)。
一歩は板木と宮木の書き分けが難しそうですネ。
これから細々と作品が増えていけばイイなぁ・・・。




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