片方ずつのイヤフォン





「木村さん、早く、早く〜!!」
 電車のドアの前、ブンブンと板垣が手を振っている。
 犬みたいだな。
 なんて思って、木村はクスリと笑った。
 本当に尻尾があれば、ブンブンと猛烈な勢いで振り回されていることだろう。
「は〜い、はい。そんなに急がなくても、まだ発車まで時間があるだろう?」
 言いながら、板垣に続いてスルリと電車に乗り込んだ。
 朝の下りの電車は、人もまばらだ。

『たまには遠出してデートしましょうよv』

 などという板垣の提案により、ちょっと遠くの街にある某国に出かけることに相成った二人であった。

 今日は絶好の行楽日和だ。
 あいている席にポスンと腰を下ろして。
 ポケットからイヤフォンを取り出して、両の耳に当てた。
 好きなアーティストが、最近出したアルバム。
 どれもこれも、好きな歌ばかりだ。
 はしゃぐ板垣を見つめながら、心地よいメロディーを耳で感じる。

 カタン、カタン・・・。

 ゆっくりと、電車が動き出した。



 電車は、都会の喧騒を抜けて、海沿いを走る。
 蒼い海と碧い空。
 蒼と碧のコントラストが美しい。
 ボーっとしながら、外の景色を眺めた。

 不意に。
 肩を小突かれて、板垣の方に顔を向けると。
 ちょっぴり不満そうな表情が飛び込んできた。
「木村さん」
「ん〜?何??」
「それ、嫌です」
 板垣が指差したのは、木村の耳のイヤフォン。
「木村さんが、ボクのこと無視してるみたいで、嫌です」
 軽く頬を膨らませて、そう主張する。
「あ〜、悪い」
 片方の耳から、イヤフォンを外して。
「オレの好きなアーティストだ。お前もさ、なんつーか、好きなヤツの好きな音楽とか、ちゃんとチェックしとけよ」
 そんなことを言いながら、板垣の片耳に当ててやる。

 折り良くも、次の歌は、木村が一番好きな歌だ。
 前向きに、前向きに進んでいこう、という希望が感じ取れる歌。

 この歌、板垣も気に入ってくれるとイイな・・・。

 思いながら、僅かにボリュームを上げた。

 片方ずつのイヤフォンが、二人を繋いで。
 同じ曲を、同じように聴いている。

「あ・・・」
 小さく、板垣が声を上げた。
「何だよ?」
「ボク、この曲好きだなぁ」

 その言葉ひとつが、どうしてこんなに嬉しいんだろう?

 同じ曲を聴いて、同じように好きだと感じて。

「・・・ありがとな」

 ポツリと呟くと、板垣がきょとんとした表情になった。

 カタン、カタン・・・。

 電車の揺れが心地よい。

 木村はそっと手を伸ばして、板垣の手に己のそれを重ねた。




  〜 END 〜




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10万打お礼のラストは板木ですv
短いですが、愛だけはてんこ盛り〜!のつもり。
板木って、本当にかわいくて可愛くて大好きvvv
これからも幸せな二人でいてください。





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