[宮木or木宮10題]

6//ガソリン





 何だか最近、ヤル気が起きない。
 生き甲斐のはずのボクシングにも、イマイチ集中できなくて。
 宮田はイライラと舌打ちした。
「あー、落ち付かねえ・・・」
 グローブを外し、ジム内をウロウロしたが、やっぱり落ち着かない。
 気分転換にロードワークに出ようと思い立ち、宮田は父親に一声かけてから、ジムを出た。



 気が付いたら、鴨川時代に良く走っていたコースに出ていた。
 そして、ふと思う。
 ああ・・・そうか。俺、木村さんに会いたいんだ・・・。
 本能は正直だと思い、宮田はクスリと一人で苦笑した。
 鴨川チームのロードコースに出ても、その人に会えるとは限らないのに。
「俺って、結構可愛いところあるんだな・・・」
 ボソリと呟いたそのタイミングで。
「宮田!」
 聞きたかった声が聞こえてきて、宮田は思わず飛び上がった。
「木村さんっ!?」
 ニコニコと屈託なく笑いながら、木村が近付いてくる。
 二人の距離が縮まっていくにつれ、ドキドキと心音が高まってくる。
 どどどどど、どうしよう、どうしよう・・・!!
「こ、こんにちは・・・」
 何とか挨拶をすると、
「おう!元気にしてたか??」
 尋ねられた。
 ホワホワと優しい笑顔が、心に沁み込んでいく。
 とてもイイ気分になって、先ほどまでギクシャクと動いていた身体が、滑らかに動くようになった気がした。
「アンタって・・・ガソリンみたいですね」
 唐突に、けれどもしみじみとそう告げると、木村は「?」という表情になって。
「その心は?」
「アンタが側にいてくれるだけで、ヤル気が出て。前に進もう、って気持ちになれますよ・・・俺は」
「あー、ハイハイ。そうですか・・・」
 投げやりな言葉が戻ってきたが、頬が微かに赤くなっているのが分かる。
「木村さん?」
「・・・何だよ」
「アンタ・・・本当に可愛い人ですね・・・」
「はあ!?何言ってんだ、お前は!?1回死んで来い!!」
 照れ隠し(?)に飛んできた右ストレートを軽く交わして、その腕を取った。
「イヤですよ。死んでしまったら、アンタをこうして抱きしめることも出来ないでしょう?」
 腕を広げてギュウと抱きしめると、木村が顔をしかめた。
「抱きしめなくていい!!」
「は?アンタが側にいるのに抱きしめることもしないなんて、そんな勿体無い行動は、俺の辞書には載ってませんよ」
「・・・アホ・・・」
 腕の中、木村の温もりを感じる。
(なんだか・・・落ち着くよなぁ・・・)
「お互いに忙しいことは重々承知してますが、たまにはこうやって会いましょうよ。ねえ?」
 返事はなかったが、宮田は構わずに続けた。
「アンタに会えない期間が長いと、俺、ガソリン切れちゃいますんで。そこんとこ、良く考慮してくださいね」
「・・・ハイハイ、分かったよ」
 パッと木村から腕を放して、宮田はサワヤカに笑った。
「補給完了!!木村さん、ありがとうございました。本当は、キスの一つでもさせてもらえれば、俺はもっとヤル気が出るんですがね?」
「断る!!」
 即座に拒否をされ、けれども宮田はニヤリと笑った。
「そんなに照れなくてもいいんですよ?」
「だから、一回死んで来い!って言ってるだろうが!?」
「それについては、丁寧にお断りしたはずですが?」
 本当に、この人と一緒にいると落ち着くと思う。
「それじゃ、ロードの続きをしましょうか。もちろん、ご一緒させてもらって構いませんよね、木村さん?」
「仕方ねえなぁ」
 タタタ、と木村が駆け出した。
 その後を駆けながら、
 俺、この人のこと、本当に好きなんだなぁ。
 宮田はそっと瞳を細め、ボクサーにしては華奢に思えるその背中を見つめた。



〜 END 〜


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このお題は、めちゃくちゃ難しかったです〜(汗)。
ベタな話しになりまして、スミマセン。
もう少し、まともな宮木が書けないものか・・・。





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