[宮木or木宮10題]

7//成長期





 鴨川ジムには。
 どこか大人びた雰囲気を漂わせる少年がいた。
 素人の木村の眼から見ても、ボクシングが『巧い』と分かるような。
 リング上を、軽やかに動く少年。
 サンドバッグを叩く姿もリズミカルで。
 素直に、スゴイな、と感じた。
「お前、巧いなぁ」
 感心したように呟く木村に、少年はムスッとした表情で言った。
「俺は『お前』じゃありません。宮田一郎って名前がちゃんとあるんでね」
 木村に『お前』呼ばわりされたのが気に食わないらしい。
「ああ、悪かったな」
 クシャリ、と頭を撫でながら。
「これからヨロシクな、宮田」
 そう言って木村が笑うと。
 宮田はますます面白くなさそうに、顔をしかめた。



 悪いヤツじゃない。
 宮田に対する、木村の感想はそんな感じだった。
 いつもムッとしたような顔をしているのは、単に感情を表に出すのが苦手だから、らしい。
 時折、ぶっきらぼうに。
 けれども的確な助言を、木村に与えてくれたりする。
「ありがとな」
 言いながら、頭を撫でると。
 宮田は、最高に面白くなさそうな顔をする。
「子供扱いしないで下さいよ」
「ゴメン、ゴメン」
 謝りながらも、クシャリと頭を撫でたら。
「・・・子供扱いしないでって言ってるだろ!?」
 珍しく、声を荒げた。
「お前が怒鳴るなんて、珍しいな・・・」
 木村がじっと、宮田を見つめると。
 つり上がり気味の瞳が、キッと木村を睨んだ。
「今にきっと、アンタなんか追い越してやる・・・!」
「は?」
「アンタの背なんか追い抜かして、今度は俺が、アンタを子ども扱いしてやるって言ってるんです!!」
「ハイハイ。頑張れよ〜、宮田くんv」
 更にしつこく頭を撫でると。
 今度は無言で、手を振り払われた。



「木村さん?」
 ニコリ、と、宮田が笑う。
 少年から青年へと成長した宮田の背は、予定通り(?)伸びて。
 ほんの少しではあるが、木村より高くなった。
「アンタ、本当に可愛いですね・・・」
 その言葉に。
(ムカつく・・・)
 木村は不満げに、宮田に視線を当てた。
「そんな目をしたってダメです。俺は昔、アンタに誓ったでしょ?アンタの背を追い越して、俺がアンタを子供扱いします、ってね」
 ニヤニヤと笑う宮田をみていると、どうにも口惜しい。
「殆ど変わんねえだろうが・・・」
「何か言いましたか、木村さん?」
(少し背が伸びたぐらいで、偉そうにしやがって・・・!!)
 そう思いながら。
 木村は心の中で、ベエ、と、宮田に舌を出した。
「別にぃ。何でもないけど?」
 ニヤリ、と、宮田が笑う。
「アンタ、本当に可愛いですよ?」
「うるせえ!」
 木村は昔よりずっと広くなった宮田の背中を、思いっきり叩いて。
 痛みに顔を歪める宮田を見て、少しだけ、憂さが晴れたような気持ちになった。


〜 END 〜


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このお題は、自分にとって非常に難しかったのですが。
最後に残すと大変そうなので、
果敢にチャレンジしてみました(笑)。
もっと素敵な宮木が書きたいです・・・ガハッツ・・・。





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