THE SOUND OF MUSIC C
こうして、ジュリアス邸に明るい笑いが戻った。
チャーリーが、アンジェリークに向かっておどけて見せた。
「あんた、たいしたもんやな。あのジュリアス大佐が、笑うようになるなんてビックリやで!!」
アンジェリークは、ニコリと微笑んだ。
「私の力ではありません。子供達の力ですよ」
そして今日も、美しい歌声が、邸内に響く。
オリヴィエが、感慨深げにジュリアスに話しかけた。
「ねえねえ、ジュリアス!私さ、音楽祭に参加させたい、素晴らしいグループを見つけたんだよ!!」
「それは良かったな」
オリヴィエは、バッチンとジュリアスにウインクする。
「その名も、ジュリアス一家合唱団♪これにあんたが加われば、完璧vvv」
「・・・面白い冗談だな?」
「冗談じゃないって!!」
オリヴィエが叫ぶ。
「ぜーったいに、音楽祭の話題を攫うって。ね、考えてみない?」
ジュリアスは、オリヴィエの言葉を鼻で笑い飛ばした。
「駄目だ。子供達は、人前では歌わせない」
「そこを何とか!!」
「私が駄目だと言ったら、駄目だ。知っているだろう?」
二人の会話が泥沼に入りそうな気配を感じたのか。
「さあ、次は誰の歌?」
ジュリアスを振り返って、アンジェリークが笑った。
「大佐も歌われませんか?」
「私が?」
ジュリアスが眉をひそめる。
「お上手だと聞きました」
「・・・昔の話だ」
アンジェリークがコレットに目配せをすると、コレットが手に持っていたギターをジュリアスに手渡した。
「全員の希望です。歌ってください」
悪戯っぽく、アンジェリークが笑う。
ジュリアスは苦笑しながら、ギターを受け取った。
「それでは・・・わが祖国を讃え、エーデルワイスの歌を」
ジュリアスの長い指が、ギターの弦に触れる。
ギターに合わせジュリアスが唇を開き、深みのある声が、美しいメロディーを奏でた。
(この方は、なんて素晴らしい声で歌うのだろう・・・)
アンジェリークは、うっとりとジュリアスの歌声に聞き惚れた。
若草色の瞳が、熱心にジュリアスを見つめた。
豪奢な金の髪が揺れ、苛烈に見えることの多い、深い蒼の瞳が優しく揺れる様を。
不意に、ジュリアスの視線がアンジェリークに流れてきた。
瞳と瞳がぶつかり、アンジェリークは思わす、息を呑んだ。
視線を逸らさなければ、と思っても、ジュリアスの顔から目が離せない。
いつの間にか、エーデルワイスの曲は、終わりに近付いていた。
最後のワンフレーズを歌いながら、ジュリアスは瞳を和ませ、アンジェリークに微笑みかけた。
・・・とまどいながらも。
アンジェリークはそっと、ジュリアスに微笑み返した。
「素晴らしかったわ、ジュリアス」
ロザリアが、歌い終わったジュリアスの腕を取り、囁くようにして言った。
チラリ、とアンジェリークに視線を向けながら。
ロザリアは彼女にしては珍しく、甘えるような口調でジュリアスにねだった。
「ねえ、ジュリアス。貴方はわたくしのためにパーティを開いて、貴方のご友人にわたくしを紹介してくださらなくては」
「・・・そうだな・・・」
ジュリアスが答えるのを聞きながら。
アンジェリークは自分の胸の中が何故ザワザワするのか分からないままに、子供達に向かって言った。
「さあ、もう寝る時間よ。お父様にお休みのご挨拶を」
子供達が、次々にジュリアスにお休みのキスをし、部屋から出て行く。
「それでは、私も・・・」
最後に、アンジェリークが部屋を出た。
アンジェリークが姿を消したその扉を、ジュリアスがやはり優しい瞳で見つめた。
そんなジュリアスの様子を見て、ロザリアが表情を微かに曇らせた。
大勢の人々が、集まっている。
ダンスの曲が絶え間なく流れ、人々が楽しげに踊っている。
人々の中心には、ジュリアスとロザリアの姿があった。
挨拶にやって来た集まった人々に対して、ジュリアスはロザリアを紹介する。
招待客の中の、淡い水色の髪をした男が、ホールに飾られてあるオーストリア国旗を見て不愉快そうな表情になった。
男は無言でダンスホールを突っ切り、無愛想な顔でワインを飲んでいる黒い髪の男に近付いた。
「クラヴィス様」
「ああ・・・リュミエールか」
「ご覧になりましたか?ホールのオーストリア国旗を。これみよがしに飾ってありました」
「・・・ジュリアスは、愛国家だ仕方あるまい」
子供達は、物陰からじっと、ダンスホールの様子を見ていた。
「女の人が、とってもキレイ!」
メルが、嬉しそうに言った。
「あんなん、気味悪いだけじゃんかよ!」
ツンツンしながら、ゼフェルが答える。
「アラ!ホントは怖いんでしょ?」
レイチェルがクスリと笑うと、ゼフェルは、ムキになった。
「ちっげーよ!オンナを怖がるのは、大人のオトコだろ!?」
コレットは、一人でダンスを踊っている。
「コレットお姉ちゃん?誰と踊っているの??」
「一人よ」
「・・・好きな人??」
答えずに、コレットはクルリと回転した。
ランディがコレットの手を取る。
「踊っていただけますか?」
「ふふっ。喜んで」
ランディとコレットが踊っていると、アンジェリークが現れた。
「あら!あなた達、踊れるのね?素敵よ、ランディにコレット」
「先生、今度はジュリアス一家舞踏団を作ろうなんて言わないでくれよな?」
ゼフェルの軽口に、アンジェリークはクスリと楽しそうに笑った。
「言わないわ」
流れていた曲が、別の曲に変わる。
「これ、何の曲ですか?」
ティムカが尋ねると、アンジェリークは微笑みを絶やさぬままで答えた。
「オーストリアのフォークダンスよ」
「先生、一緒に踊ろうぜ!」
ゼフェルが快活に叫ぶ。
「駄目よ。もう随分踊ってないもの」
「頼むって!」
なおも言い募るゼフェルに、アンジェリークは困ったように笑った。
「仕方ないわね。それじゃ、踊りましょうか?」
アンジェリークがゼフェルの手を取る。
「はい!ステップ、ステップ、いち、に、さん!!」
子供達の様子を見に来たジュリアスは、その様子を見て穏やかに微笑み。
白い手袋をはめなおし、ジュリアスはトントンとゼフェルの肩を叩いた。
「代わってもらえるか?」
「ああ、イイぜ」
スルリとゼフェルが二人から離れる。
「踊ってもらえるか?」
ジュリアスが尋ねると、アンジェリークは俯き、小さく頷いた。
アンジェリークの手をジュリアスが取り、二人は踊りだす。
まるで、小鳥のようだ。
そう、ジュリアスは思った。
羽根のようにフワリと軽く、アンジェリークは踊る。
若草色の瞳が、月明かりの下でキラキラと輝く様を、ジュリアスは美しいと素直に賞賛した。
アンジェリークは、夢見心地で踊っていた。
ジュリアスに手を取られ、どうしてこんなにドキドキしているのかが分からなかった。
深い蒼の瞳から、目が逸らせない。
二人は、お互いの吐息を感じられるそうなほどの距離で見つめ合った。
突然、アンジェリークがジュリアスの腕の中から身を離した。
「もう、踊れません・・・」
「何故だ?」
「続きを・・・忘れました」
「先生、お顔が真っ赤だよ?」
無邪気にメルが指摘し、アンジェリークは思わず、自分の頬を押さえた。
何か言い訳をしなければ。
「・・・踊りすぎました・・・」
下手な嘘だと思いながら、アンジェリークはジュリアスにそう言った。
視線を、伏せながら。
まともにジュリアスの顔を見られない気分だった。
その時。
コツコツと、高いヒールの音が聞こえてきた。
「とても素敵でしたわ」
ニッコリと微笑みながら、ロザリアが現れる。
「二人とも、とても息が合っていてよ」
「・・・子供達に、休みの挨拶をしにきたのだ」
こちらも言い訳がましく、ジュリアスがロザリアを振り向く。
その言葉に救われたように、アンジェリークは不自然に見えないように注意しながら言った。
「子供達から皆さんへ、お休みのご挨拶があるんです。ホールへどうぞ・・・」
子供達と一緒に、アンジェリークは逃げるようにジュリアスの前から姿を消した。
〜 Dに続く 〜
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お待たせしました、第4話です。
ようやく、少しだけジュリリモでいちゃいちゃ。
最近、ジュリリモたくさん書いてるので、ちょっと幸せv
次回はちょっとリモちゃんにとって切ない展開に・・・。
なると思います。
話の流れがそうだから(笑泣)。
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