THE SOUND OF MUSIC G




 トクン、トクン・・・。
 アンジェリークの心は、大きく波打った。
 その音がジュリアスに聞こえてしまうのではないかと、アンジェリークはますますドギマギした。
 この人は、どうして黙っているのだろう?
 用事があるのなら、早く済ませればいいのに。
 そんな事を思いながらそっとジュリアスの様子を伺うと。
 視線の先には、じっと自分を見つめる瞳があった。
「アンジェリーク」
「はい」
 名前を呼ばれて、思わず、返事をした。
「私は、ずっと考えていた。そなたがこの屋敷から逃げるように出て行ってしまった理由と、そなたを再びこの屋敷に呼び戻した理由を」
 アンジェリークは、口早に答えた。
「子供達のためです」
「・・・それだけか?」
「子供達に会いたかったんです」
「子供にだけか?」
 なんて残酷な質問なのだろうか?
 他にどう答えろというのだろう。
 言える訳がない。
 あなたが好きです、あなたが好きです、あなたが・・・。
 だから、アンジェリークは答えた。
「そうです。それ以外に何の理由があるんですか?」
「いや・・・」
 ジュリアスは、アンジェリークから視線を外し、空を見上げる。
「そなたがいないと、家の中が暗くなる。ずっといて欲しい」
 その唇から出てきた言葉に、アンジェリークは泣きたくなった。
 幸せなジュリアスとロザリアの側で、笑っていられるはずがない。
 アンジェリークは、ジュリアスの無神経さに苛立ちを覚えた。
「家の事なら、新しい奥様が・・・」
 アンジェリークの声を遮るようにして、ジュリアスが言葉を発した。
「婚約は、取り消した」
「え?」
 驚き、聞き返すアンジェリークに、
「婚約は、取り消した」
 ジュリアスはもう一度繰り返した。
「どうして・・・?」
「そなたなら、結婚するか?他の人を愛していることに気付いた時に、それでも・・・?」
「・・・いいえ・・・」
 アンジェリークは答え、ジュリアスを見つめた。
 目の前の蒼い瞳が、優しく、穏やかな色に彩られた。
「アンジェリーク・・・」
 ジュリアスの端整な顔が、近付いてくる。
 胸の高鳴りを止めることなど到底出来ずに。
 アンジェリークはそっと、目を閉じた。
 口唇に、少しだけ冷たい感触。
 ジュリアスにキスをされているのだと思うと、カタカタと身体が震えた。
 優しい腕が、アンジェリークの頭を支えて。
 口唇が離れた後、ひどく恥ずかしいような気分で、アンジェリークはジュリアスの肩先に顔を埋めた。
「ディア様が仰ったの。道は必ず開けるって・・・」
「それで?道は見つかったのか?」
 優しい声が、降って来る。
 アンジェリークは顔を上げ、ジュリアスを見つめて笑った。
「ええ・・・」

 そして二人は立ち上がり、庭の中をあてどもなく歩き始める。
「私のことを、いつから好きになったのだ?」
 ジュリアスの質問に、アンジェリークはクスリと笑って答えた。
「あなたが、あの怖い笛を吹いた時に」
「私は、そなたが松かさの上に座って、飛び上がった時だ」
 顔を見合わせて、二人で笑った。
「・・・ディアの他に、結婚の許しを得なければならない者はいるか?」
「まずは、子供達に・・・」
「そうだな」



 厳かに、オルガンの音が響き渡る。
「アンジェリーク・・・」
 真っ白なウェディングドレスに身を包んだアンジェリークを見つめ、ディアが瞳を潤ませた。
「私の可愛い子・・・。あなたに、神の祝福を・・・」
「ありがとうございます、ディア様」
「良かったですねぇ、アンジェリーク・・・。本当に幸せに」
 ルヴァは、ひっきりなしにハンカチで目元を拭っている。
 そして、クラヴィスのアメジストの瞳が、優しくアンジェリークを見つめた。
「だから私は言ったのだ。お前に修道女は似合わないと・・・。幸せに、アンジェリーク」
「ルヴァ様、クラヴィス様・・・」
 コレットが、アンジェリークの前に現れた。
 緊張の面持ちで、アンジェリークが立ち上がる。
 修道女たちに見送られながら、向かう先には・・・。
 オリヴィエに伴われた、正装の軍服姿のジュリアスの姿があった。
 ジュリアスに手を差し伸べられ、アンジェリークは躊躇うことなく、その手を取った。

 一緒に生きていける。この人となら・・・。

 神父の前で、二人は跪き。
 そして、神に永遠の愛を誓った。





〜 Hに続く 〜



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8月中どころか、10月に突入してしまいました。
なかなか更新できなくて、スミマセン(滝汗)。
このシーンが終われば、物語りも終わりに近い、
ということで。
もう少しお付き合いいただければ幸いです。






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